エルフェンリート

著者:岡本 倫
出版:集英社 ヤングジャンプ・コミックス
発売年:2002年

表紙
(C)2002 Lynn Okamoto




 書店で平積みしていたこの本。普通なら見向きもしないでしょうが、ふと目に留まり、手にとって中身を開きました。
 理由は、タイトルがドイツ語だったからです。いや、それだけです。
 エルフェンリート(elfen liet)訳すると「妖精の歌」ですね。



 冒頭。孤島にある白い施設。着陸してくるヘリ。そこから降りてくる、険しい表情をしたスーツ姿の男が2人。
 場面変わって、暗く、ものものしい室内。先ほどの2人が話し合っている。

「絶対に彼女のそば2m以内には近づかないで下さい。もし半径1m47cmの中に入ったら、確実に死ぬことになります。昨日も落としたボールペンが元で、警官が1人死んでいます」
「こ…これが……。たかだか人ひとり拘束するため、地下20mにこの施設とは…。少し大げさすぎるのではないか?」
「まさか、彼女のことを知ればこれでも無用心なくらいですよ」
「いったい…この中にはなにがいるんだ?」
「さきほどもお話したとおり…人間の突然変異体(ミュータント)です」
――その突然変異体は、我々とどこが違うんだ?」
「細かな相違はいくつかあります。ただ決定的に違うのは……腕が2本じゃないんですよ


 中年の男たちが、ものものしい雰囲気の中、顔を緊張させて話しています。説明しているほうはこの施設の室長。もう1人は省庁の次官のようです。
 とても私好みの渋い展開です。ちょっと絵柄がありがちなアニメタッチだったりしますが、まあそれは置いときましょう。
 13ページ目まで読んで、購入を決意してレジへと持って行きました。
 買ったあと、ゆっくりと続きを読み始めます。

 それから場面が変わり、駅の前で2人の普通の男女が登場します。
 男の名前がコウタ、女がユカ。二人は従兄妹で、8年間ぶりの再会だそうです。コウタが大学の関係で上京して、これからしばらくユカの家に居候するらしいです。

ユカ「あの〜、コウタ君。私のこと、忘れてないよね?」
コウタ「………ユカちゃんだ」
ユカ「うん!!ユカでいいよ」


 ……なにこれ。
 さっきのミュータントのお話はどこにいったの?
 このkanonのキャラの名前を変えただけみたいなストーリーはなに?
 印刷所さん、
 製本ミスで他の本のページが紛れ込んでますよ。


 …………それはいいとして、18ページ目から再び施設のシーンです。

次長「こ…これがミュータント!?」

 そこにあるのは、鉄仮面のようなヘルメットをかぶせ、柱に全身をベルトで拘束された、性別の区別もつかないような人影です。
次長「なんなんだ、この拘束具は」
室長「彼女のオリですよ。これから彼女を移送します。我々は先に上がっていましょう」



ガツ!ビターン!
ドジっ娘「ふ…ふえええ〜」

 よく転ぶドジっ娘登場。

次官「な、なんだね彼女は」
室長「私のズッコケ秘書です」


 いや、渋いスーツの2人。そこで説明すればいいってもんじゃないです。


 ……とりあえずドジっ娘が転んだだけですので、気を取り直して読み直します。
 さきほどの話に出ていた突然変異体の『彼女』。一瞬の隙をついてその場にいた警備員2名を殺害。カギを奪って拘束具から脱出します。全裸にヘルメットをかぶったまま、血塗れで立つ『彼女』。
 気づいた他の警備員が『彼女』に向けて拳銃を発砲しますが、不可視の力によって弾道が曲げられます。『彼女』はさらに警備員を殺戮しながら逃走。
 警報の鳴り響く中、『彼女』は外に通じる最終メインハッチの前に立っています。警備員に包囲されながらも、さっきのドジっ娘を人質として抱えながら。

ドジっ娘「室長〜!!こわいよ〜!!おと〜さ〜ん、おか〜さ〜ん」

 すこしは場の空気を読んで悲鳴をあげてください。

室長「如月!!」

 あ、やっとドジっ娘の名前がわかりました。

 歯を食いしばって悩む室長。メインハッチを開けると『彼女』は外に逃げてしまう。そうなると何人死ぬか予想もつかない。
 そして、決断を下す。
室長「如月…ここで死んでくれ」

 沈黙。

ドジッ娘「……。私……室長のお役に立てますか?」
室長「ああ。絶対に無駄にしない」
ドジっ娘「約束ですよ。絶対ですよ」


 『彼女』によって、ぶちり、と音を立てて如月の首がもぎ取られる。

室長「撃て!!」

 激しく銃弾にさらされる『彼女』。それをドジっ娘の死体を盾にして防ぐ。
 だが人質を殺してしまった以上、彼女がハッチを開けることはできないはずだった。
 しかし……、『彼女』が押すと、ハッチは音を立ててゆっくりと開いた。ここに来る前にコントロールルームが襲われ、すでにロックは解除されていたのだ。

 『彼女』。哄笑とともに外に歩みだす。ふと笑いやめ、室長に向けてポツリと一言

「無駄死にだ」



 ――ここまで読んで、興奮のあまり震えている自分に気づきました。スリルに満ち溢れた、凄惨なストーリー展開。
 邪魔だ邪魔だと思っていたドジっ娘も、その死によってみごとに場を盛り上げているわけです。



 読み進めます。
 崖から海に飛び込んで逃げようとする『彼女』を、狙撃班が狙います。ですが、惜しくも弾丸はわずかに外れ、ヘルメットを叩き割り、そのまま『彼女』は崖から落ちていきます。


 場面は変わって、さっき製本ミスで登場したコウタとユカが海岸を散歩しています。
 そして彼らは、流れ着いた全裸の少女に気づきます。『彼女』です。『彼女』は自分を見る2人に気づきます。そして……。

「にゅ?」

 ヘルメットが取れた『彼女』の素顔は、どっかの美少女系キャラを思わせるような顔立ちでした。
 ていうか、こいつ↓です。
表紙 顔拡大


…………

なにそれ

 ええい、このっ!!せっかく凄惨でスリルある雰囲気を楽しんでいたのに、いきなりそれか!?
 なんだ、そのストーリー展開は?さっきのお話はどこにいったの!?「無駄死にだ」とか言ってた残虐女がどうして「にゅ?」なんだ!?

ユカ「ひどいキズ…。このケガのせいで、記憶をなくしちゃったのかなぁ…」

 うわ、そういう設定にするんですか。おい。

ユカ「ん〜、名前もわからないんじゃ不便だねぇ」
コウタ「さっきからにゅうにゅう言ってるし、取りあえずにゅうでいいんじゃないか」


もういやだ

 それからは嬉し恥ずかしの着替えイベントとかお風呂シーンとか(うわ…)、とにかくそんなラブコメチックというかギャルゲーみたいな展開です。
 なんなんですか、この漫画は。人を期待させておいて!
 にゅうとかいってるし、角とか言いつつネコミミにしか見えないようなもの生えてるし、手が2本じゃないというからグロい肉体を期待したのに、半透明のスタンドみたいな手が使えるってだけだし。2つじゃないのはミミの方でしょう。

 ……ミミといえば、なんかに似てるな。このキャラ。



表紙ちょびっツ 表紙
(C)2001 CLAMP


 並べてみました。

 いや、まあ、似てるとかいっても、まるっきり同じわけじゃないですよ。
 こっちは「にゅう」だし。向こうは「ちぃ」だし。

 ……いや、もうノーコメント。


 ――まあ、さんざん言いましたが、こういうものだと割り切ればさほど悪くはない漫画です。
 むしろラブコメチックな展開で精神を緩ませたあと、残虐なシーンという落差を楽しむものだとすれば、かなりいい作品とも言えます。
 とりあえずまだ一巻ですので、これからを楽しみにしましょう。








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