真冬の蜘蛛


月光に映える雪上で
血の意に従え敵意の子よ
衝動がままの君は限りなく美しい
たとえそれが終わらぬ孤独を隠せなくても

君の手を見せてくれ
か細いそれを振るえば なにもかもを塵にできただろう
君の脚を見せてくれ
しなやかなそれで駆ければ 誰も彼も逃げられないだろう
君の身体 足元の雪と同じ純白の肌に包まれた
たったそれだけで世界を覆せる
だが今はもう何もない あるのはどこまでも雪
雪は焼き尽くされても雪が降る

敵意は恐怖から 恐怖は弱者から
そう 君は弱者の落とし子
独善の覚悟で滅亡の因子として産まれた
でも君が目覚めるまえに世界は壊れてしまった
そこに残るは月と灰と氷雪 そこに残るは永劫無限の白

ふと思い出す いつか見た真冬の蜘蛛を
人家かなにかから放り出されたのだろう そこに在るのが不自然な生命
雪の上でわななきながら 毒牙も糸も意味をなさずに
ただ凍りついていったあの蜘蛛を

ああ あれはこの未来のことだったのか
誰も笑ってくれない風刺
でも君だけは笑ってくれる
どこまでも響く美しい声で いつまでも

そう いつまでも いつまでも




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