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※お知らせ
いつもKanon視聴記をご覧頂きまして誠にありがとうございます。
今回の第8話ですが、真琴メインの話ということで、あゆと栞が出ません。うぐぅうぐぅを楽しんだり、ドラマみたいな凝ったセリフのやりとりを期待されていた方には大変申し訳ございませんが、何卒ご了承いただきますようお願いいたします。うぐぅ。
朝。名雪が真っ先に家を出て学校に向かいます。
いつも寝ぼけてるイメージのある名雪ですが、こう見えても彼女は陸上部。体育会系の部活ですので、朝錬のための早起きも当然できるのです。
寒い雪道を駆けていく名雪を、家の中から祐一と真琴が見ていました。二人ともまだ寝巻き姿です。
ネコアレルギーの名雪が居なくなったところで、例の猫を部屋から出しました。いまだにぐうぐう寝ています。
「この猫、どうするんだ?」
「できたら飼ってあげたいんだけど……だめかな?」
祐一の問いに真琴が答えました。
前回の終わりで、既成事実的に飼うことが決まっていたような感じがしましたが、よく考えたらそんなことはなかったのでした。
「秋子さんに聞いてみろよ。一秒で答えが出るぜ」
不安げな顔をする真琴を安心させるかのようにそう言いました。
「了承」(一秒)
「わっ、本当に一秒で決まった」
「だろ?」
あまりにあっさりOKが出たことに真琴もびっくり。祐一はなぜか得意げです。
しかし「了承がもらえるぜ」じゃなくて「答えが出るぜ」と言ったのは、やはり断られる可能性を考慮していたのでしょうか?
「却下」(一秒)とか「保健所」(一秒)みたいな……恐ろしいぜ秋子さん。
「そうと決まったら、次は名前だな。俺が可愛い名前をつけてやろう」
「え? 祐一が?」
「まかせておけ。こう見えても女の子受けするツボは心得ているつもりだ」
そう言って考え込みます。と、すぐさま閃き、紙にマジックを走らせました。
「猫塚ネコ夫!」
「…………誰それ?」
「その猫」
「なんでー? 人みたいで気持ち悪い」
「じゃあ……シャム塚シャム夫!」
「もっと可愛いのにしてよぅ」
ニャロメの人が頭から離れないみたいです祐一。しかしそんな名前だと、体壊しているにもかかわらず酒をガバガバ飲みそうで不吉です。早く養生して復帰してくださいよ赤塚先生。
立て続けに却下された祐一は「肉まん」という名前を提案しますが、これも真琴からボツにされます。なので少しひねり、ピロシキから取った「ぴろ」という名前はどうかと聞きます。
「可愛いけど、どういう意味?」
「意味はない。純粋に俺の乙女心をくすぐる宇宙。その名も乙女コスモより生まれでたワードだ」
「ふうん。なんだかよくわかんないけど、可愛いからいいや」
というわけで、猫の名前はぴろに決まりました。あっさり決まって良かったです。このまま迷ってたら、そのうちシャモンという名前まで飛び出し……(身の危険を感じて口を閉じる)。
……ちなみにピロシキはロシア料理。肉まんというよりは揚げパンなのですが、どっちにせよ食べ物の名前です。
それを知らない真琴は猫を抱いたまま「ぴーろ、ぴーろ、ぴろぴろー」とはしゃいでました。
「お前保育所にそいつ連れて行く気か?」
「うん。だって一緒にいたいもん」
真琴は、登校姿の祐一と一緒に歩いていました。もちろんその頭の上にはぴろ。首とか痛くならないんでしょうか。
「よく言うな。歩道橋から投げ捨てたくせに」
「あれ、わざとじゃないもん」
殺す気満々に見えたのですが、違ったみたいです。
真琴は、記憶をなくしたときにぴろが助けてくれたみたいだと語ります。お財布とか置いてくれたりなどしてくれたとか。そのわりには第一印象がよろしくなかった気もしますが。
しかし思い出してみると、第1話のあゆの回想シーンで、ぴろらしき猫がタイヤキを盗んでいる光景が描写されていました。もしかするとあのタイヤキは真琴に持って行こうとしたのか……などと思ってみたり。
ともあれ、すっかりぴろと仲良くなった真琴。祐一と一緒に保育所に向かいます。
いつもの通学路ではない見慣れぬ道ですが、きっと保育所に真琴を送ってから祐一は学校に行くのでしょう。
……あと、大変個人的なことで申し訳ないのですが、私はこの道になんかひどく見覚えがあります、現実で。札幌の西岡の陸橋あたりのようなー。
「ねえ祐一」
「なんだよ」
「えーとね。ニクマンッテ、ドウシテアンナニ、オイシインダロウネ」
すげえ棒読みの真琴。
「……なに聞いてんだよ。お前」
「日常会話よ。日常会話」
なぜか急に日常会話を始めた真琴。しかし、話題が不自然でなりません。
そう反論した祐一に、真琴は「おいしいね、とかあいづち打ってくれるだけでいいじゃないのよぅ」とむくれます。
「おいしいねっ☆」
シャララララーンとエフェクトまで出して、爽やかな笑顔で答える祐一。
「……って、気持ち悪う」
一瞬にして自己嫌悪。
このシャララララーンエフェクト。第1話の名雪、第2話のあゆ、そして今回の祐一と受け継がれてますが、回を重ねるごとに謎の発光物体が増えています。どんな怪奇現象だ。
「気持ち悪ぅはないでしょう!」
祐一に激しいツッコミを入れる真琴。それに反撃をしようとした祐一の手をすり抜けて、真琴は駆け出していきます。
「このぉ! まてこの!」
「あははっ」
寒い冬景色の中で、元気に追いかけっこをする二人の姿がありました。
第8話 追憶の幻想曲(ファンタジア)
「よお、舞!」
学校。見覚えのある姿を見つけた祐一は、素早く駆け寄りました。ほんと女には手が早いやつです。
昨日の夜に舞から、真琴の居場所を教えてもらったことを感謝する祐一。しかし同時に「何か知ってるなら教えてくれ」とも頼みます。
一応は真琴と同居している祐一にわからなかったことを、一度しか会っていないはずの舞がわかるというのも不思議な話。実は記憶喪失になる前の真琴のことを知っているのでは……と考えたのです。
ですが舞は「私にはなにもできない」とにべもない答え。
「でも……」
急に足を止める舞。その横を、赤いショートの髪をした無表情な女子生徒が通り過ぎていきます。
「……あの子なら、ひょっとしたら」
そう言って、通り過ぎていった女子をちらりと見ました。
「え? ……どういうことだ」
当然ながらわけがわからず、祐一は聞き返します。しかし、舞は話は終わったとばかりに歩み去ってゆきました。
放課後。祐一は、原作にはいない栗毛ポニテ女子と別れの挨拶を交わします。誰だそいつ。というか、祐一は本当に女たらしです。
そんな女たらしが下校しようと階段を下りていると、窓から見える校門のところに真琴が立っているのを見つけました。
「……なにやってんだあいつ。この寒いのに」
独り言を呟く祐一。と、その背後から、
「あなたを待っているんでしょう」
いつのまにか居た少女が、独り言に答えました。舞が指名していた、赤いショートカットの女子です。
彼女の名前は天野美汐で、中の人は坂本真綾ですが、祐一はまだそのことを知りません(なんだこの解説)。
かすかな悲しみをたたえた表情で、美汐は言葉を続けます。
「あの子はあなたのお知り合いですね」
「え? あ……ああ」
「いい子そうですね」
「……まあな。不器用で人見知りが酷いけど」
「名前は、なんと言うのですか」
「真琴だよ。沢渡真琴」
と、祐一は自分が口にした言葉で、過去の思い出がフラッシュバックします。
『その人の名前は真琴。沢渡真琴っていうんだ』
幼い日に、たしかに喋った記憶のあるセリフ。ですがその言葉を発した夏の日に、彼のかたわらに居たのは……
ふと気がつくと、美汐はどこにもいませんでした。
次々と人が通り過ぎる校門。真琴は不安そうに周囲を見回しています。
「真琴!」
「……あ」
祐一から声をかけられた途端、真琴は笑顔になって駆け寄っていきました。
「どうしたんだ。待ってたのか」
「悪い?」
半眼で睨んでくる真琴。
「ほんと、素直じゃないなあ、お前」
そう言ってから、祐一は真琴の顔をまじまじと見つめます。
「……なに?」
「ああ、いや。なんでもない」
と言いつつも祐一は、真琴を見つめてなにやら考えこんでいました。
真琴と一緒に家に帰って、夕方。
「ゆーいちー!」
勢いよく開け放たれるドア。
「……お前なぁ、ノックくらいしろよ」
突然飛び込まれた祐一は不機嫌そうです。昨日真琴に紙飛行機にされた宿題をやり直している最中なので、なおさらです。
「せっかく祐一にいいもの見せてあげようと思ったのに」
「お前の裸ならもう見たぞ」
「いっ……! 真琴の裸じゃなぁい!」
なんてセクシャルなハラスメントでしょうか。しかし、反射的に胸を隠す真琴がとても可愛いです。よくやった祐一。
ところで、裸は一回見ただけで満足というのもなんだか……。足るを知るというものでしょうか(たぶん違う)。
「……いいものって、コレか?」
「うん。可愛いでしょう」
ミルクを舐めるぴろを、膝を抱えて眺める真琴と祐一。
真琴は本当に嬉しそうですが、祐一は心の底からどうでもいいという表情です。
「……宿題する」
真琴があまりにもったいぶるのでついつい見に来てしまいましたが、この上もなくつまんなかったので祐一はさっさと立ち去ります。仔猫の仕草に可愛さを感じないとは、きっと彼はイヌ派なんでしょう。
それから数時間後。ようやく宿題を終わらせた祐一ですが、またもや真琴が飛び込んできます。
ですがこんどは血相を変えて慌てています。ぴろがお腹を壊したというのです。
祐一も慌ててぴろの元にかけつけ、後片付けと看病をします。どうやら、お腹を下しただけで済んだみたいです。
「冷たいミルクなんてやったからだ。カワイイカワイイだけじゃなくて、もう少し気をつけてやれよ」
「うん……。ごめんね、ぴろ」
しょんぼりした顔で謝る真琴。
ところで、仔猫に肉まんを食べさせるのも良くない気がしますが、そこんとこはどうなんでしょうか。
そしてさらに数時間後。ぴろを看病したまま疲れて寝てしまった真琴を、祐一は黙って見つめていました。
『沢渡真琴。確かにそういう名前の女性を俺は知っていた。でもそれはこいつのことじゃない。沢渡真琴、それは子供の頃、俺が好きだった年上の女の子の名前だ』
一人考える祐一。
『……だけど、その名前を知っているやつは誰もいないはずだ。あのころ、俺の部屋にいた、あいつ以外には』
すると今の真琴の正体はなんでしょうか。というかそれ以上に、昔の沢渡さん(年上)の正体も気になります。祐一の他に名前を知ってる人が誰もいないってどういう人間でしょうか……忍者?
「――バカか。なに考えてるんだ、俺は」
鼻で笑い飛ばすように、祐一はその考えを否定しました。
まあ、いくらなんでも忍者はないですよね(そっちじゃない)。
次の日の朝。
すっかりぴろの体調も回復したので一安心。真琴は今日も保育所に向かいます。ちなみに昨日、保育所にぴろを連れていって怒られたらしいので、今日は頭の上にはなにも載せてません。
「あぅ!」
「なにやってんだよ」
なんにもない地面でつまづいた真琴。
「……なんか足がフラフラする。昨日寝てないせいかな?」
そういうわりにはしっかり寝ていましたが、あのくらいでは寝たうちに入らないんでしょうか。
ところで、保育所への道のりの風景にまたもや見覚えがあるような。むう、どこだったか……北大植物園近辺?
「……ご用というのはなんですか」
「えーと。君、一年生だよな。名前聞いていいかな?」
「天野です。天野美汐」
学校。祐一は美汐を呼び出して話をしていました。2階テラスといった感じの妙な場所です。ところで二人とも冬の屋外でプラスチックの長ベンチに座っていますが、めちゃくちゃお尻が冷たいだろうになんて思ったり。
ベンチに腰掛けての話ですが、二人は向かい合うこともなく、数メートルの距離をあけて並んで座っています。女の子にズカズカ近づいていく祐一にしては、ずいぶんと間合いがあります。美汐がなかなか他人を近づけようとしない人物であるということがよくわかります。
そんなアンタッチャブル(触れてはならぬもの)美汐さんに対してこともあろうに、真琴と友達になってくれないか、と頼む祐一。さっきまで名前も知らなかった人に頼むことじゃありません。
こんなことになったのは昨日の朝、なにやら知ってそうな舞に真琴のことを聞いたらなぜか美汐を紹介されたからです。傍目には面倒くさくなった舞が、通りすがりの美汐に責任を押し付けただけにも見えましたが。
ですが美汐もただの一般人ではなく、なにやら真琴を見て意味ありげなことを口走ったので「これはいける」と祐一は思ったのでしょう。しっかし、妙な経緯です。
「なぜ、私に友達になれというんですか?」
当然ながら理由を聞いてくる美汐。ですが経緯が経緯だけにちゃんと説明できません。
「あ、ああ。それもちょっと説明が難しいんだけどさ、君なら助けになってくれるんじゃないかって」
「私にあの子の友達になれと……そんな酷なことはないでしょう」
きっぱり拒絶する美汐。ちなみに「そんな酷なことはないでしょう」は美汐の名セリフともいうべきものですが、改めて聞いてみると女子高生の口からでる言葉とは思えません。うぐぅよりも違和感が!
ともあれ、完膚なきまでに断られてしまいましたが、逆に祐一は食い下がります。たいして知らない人間との付き合いを断るにしては、態度が極端すぎるのです。
「いったい真琴になにがあるっていうんだ。ほんとはなにか知ってるんじゃないのか」
「私はあの子を知りません。出会ってるとすれば、それは相沢さん、あなたです」
「俺が? あいつと」
「出会っているはずです。いつか遠い昔に」
その言葉とともに、祐一の脳裏に子供の頃の記憶がよみがえります。
夏の日に、憧れていた年上の女性のことを語っている思い出。
「ただ、そのときあの子は」
「待て!」
たまらず叫んだ祐一。美汐はその大声に驚くこともなく、ただ言葉を切ります。まるでその反応が予想できたとでもいうように。
「……それ以上は言わないでくれ」
そう苦しげに、祐一は話を終わらせました。
と、ここまでがAパートとなります。
CM挟んでBパートです。
放課後。下校しようとした祐一を、真琴は校門で待っていました。
また一つ手がかりを思い出したという彼女に連れられて、祐一はものみの丘にやってきます。
街を見下ろす小高い丘。その一角はなぜか雪が積もっておらず、青々とした草が生い茂っていました。
「……ここか」
「うん。ここに、ずっと長い間居た気がする」
そう言って、真琴はさらに奥へと歩きます。
獣道をたどって進むと、森の中の小さな広場に出ました。
『ここは、俺があいつと別れた……』
祐一は内心で驚きの声をあげます。
と、真琴が突然殴りかかってきました。
「なにすんだよ、いきなり」
「わかんないけど、ものすごくムカついたの。ここでめちゃくちゃ嫌なことがあったような気がするから」
「ここで。この場所でか?」
「うん」
そのとき、空からちらちらと雪が降ってきました。
「……もう降りようぜ。寒くなる前に」
そう提案しますが真琴は納得のいかない顔。しかたがなく「また肉まん買ってやるから」と言うと、態度を一転してたちまち祐一に従います。扱いやすくて楽です。
喜んで駆け出した真琴ですが、なにかにつまづいて転んでしまいます。
苦笑しながら祐一は、彼女を助け起こしました。
商店街に行き、肉まんを買って並んで仲良く頬張ります。
たわいもない会話をしながら商店街を連れ立って歩きます。
途中、ショーウィンドウのウェディングドレスに見惚れる真琴。プリクラを撮る女生徒立ちを羨ましげに眺める真琴。
そんな彼女を、祐一はどこか沈んだ眼で見つめていました。
「ただいまー」
日も沈んだ頃、二人は水瀬家に帰ってきました。名雪が笑顔で迎えます。
中から漂ってくる夕食の匂いに、真琴が眼を輝かせました。
「いい匂い。晩御飯なに?」
「今日はおでんだって」
「わーい、おでーん!」
おおはしゃぎして、真琴は跳ねるように家の中に入っていきました。
「……あいつも、だんだん素直になってきたな」
ほのぼのとした顔で言うと、名雪はため息をつきました。
「祐一はのん気だよね」
「ん?」
「お母さん、あの子の親御さんを探してるんだよ。警察とか市役所とか」
「……そうだったのか」
「でも、見つからないの。捜索願も出てないって。あの子にも、家族はいるはずなのに」
眼を逸らし、寂しげな表情を浮かべる名雪。祐一も黙ります。
そこに、にゃーと鳴きながらぴろが現れました。それを見た途端に表情がとろける名雪。
「うわぁ……よしよしよしよしぴろぴろぴろぴろ!」
首よもげよとばかりに撫で回す名雪、慌てて彼女を引き離して羽交い絞めにします。
「って、いきなりテンションを変えるな!」
「いやぁ、ぴろー」
名残惜しげな名雪さん。
ところで原作だと、たしか名雪に隠してぴろを飼っていたはずなのですが、今回のアニメ版では違うようです。名雪がぴろの名前を知っているみたいですし。
真琴がいつもぴろを頭の上に乗せててバカみたいな見た目だなあと思ってましたが、あれはきっと名雪からぴろを守るという意味合いもあるのでしょう。たぶん。
夜。祐一が雑誌を読んでいると、真琴がいきなり部屋に入ってきました。
「ゆーいちー!」
「……お前なぁ、ノックしろって言ってるだろ?」
「ねえ、紙飛行機作ろう。かみひこうき」
真琴は笑顔でそう言いますが、
「作らない」
あっさり断られてしまいました。
真琴は肩を落としてとぼとぼと部屋から出て行きます。頭の上のぴろがにゃーと鳴きました。
「ゆーいちゆーいちー!」
ドンドンと凄い勢いで連打されるドア。祐一はため息をつきながら雑誌を閉じて、ドアを開けました。
「祐一!」
「うるさいんだよ、お前は」
「いきなり開けたら文句言う。合図しても文句言う。勝手すぎるぅ」
「どうしてお前には中間がないんだ。端から端へふっ飛んでいくな」
お小言にヘコむ真琴ですが、気を取り直して笑顔を作ります。
「それよりさぁ、ほら。新しい漫画を買ってきたの。一緒に読もう」
「二人で漫画読んで、なにが楽しいんだよ?」
「ここ面白いよーって言いながら読むの。楽しいよ。どうせさ、暇なんでしょう?」
「たしかに暇だが、お前の言い方が気に食わない」
なんかどこかで聞いたようなフレーズを口にする祐一。しかしそのくらいで引き下がる真琴ではありません。
「ほら祐一面白いよこれ、一緒に読もうよ。……あ、この字。これ読めないの。なんて読むの?」
「なんだ、こんな字も読めないのか?」
「だから祐一読んで」
「……しょうがないなあ」
結局、祐一は真琴と漫画を読むことに。今回の真琴作戦は、珍しく成功を収めました。
「えーと、恋はいつだって唐突だ。……うわ、べたべたな少女漫画だな」
「私語挟まないの」
「……下痢もいつだって唐突だ」
「そんなこと書いてない!」
こんなバカなことをいいつつも、花とゆめコミックスみたいな装丁の本を読む祐一と真琴。こうもベタベタな表現が使われるところが、古き良き二十世紀を思い出させて良いです。
最近の少女漫画ときたら「ちょろいもんだぜ。そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!」というものでしょうから(片寄った知識しかない)。
「――わかった。絶対迎えに来るから。そのときは二人で一緒になろう。結婚しよう。それまで、さようなら。おわり」
と、漫画を読み終わりました。
感動的なラストシーンに、マンガチックな涙を流す真琴。それに比べて祐一は、あまりにベタな展開にうんざりした顔をしています。
そして他人の感激に水を差すように「結婚は人生の墓場っていうんだぞ」などと語りはじめます。まあ確かに、女遊びの好きな祐一にとってはそうでしょうが。
「はぁ。祐一と結婚する人は最悪ね」
「お前とはしないから安心しろ」
このやりとりに、これからの展開を知っている視聴者は誰もがやきもきしたに違いないです。
夕食。
おでんを食べようとした真琴ですが、その手から箸がこぼれおちます。それも一度や二度ではないようです。
「なんか手がうまく動かない。疲れてるのかな?」
秋子さんは何事も無いかのようにスプーンを持ってきますが、同席している名雪は心配そう。その雰囲気に、真琴も申し訳なさそうな表情を浮かべます。
「食べられないんじゃしかたないな。お前の分まで貰ってやる」
祐一は冗談めかして真琴の皿に箸を伸ばします。すると「真琴の返して!」とけっこう本気で大騒ぎに。
沈んだ空気は一瞬にしてどこかに吹き飛んでいました。
そんな夕食も終わり、皆が寝床についた深夜。
眠っていた祐一の肩を、真琴がゆすりました。今夜はイタズラではないようです。
「……なんだよ今度は」
「ねぇ、ぴろ来てない?」
そう言って、真琴は掛け布団をめくります。
「お、おい! ちょっと!」
祐一は慌てます。そりゃあ男の子が寝起きのときに、掛け布団を剥ぐような行為は無礼千万ですしね。
ですが布団の中では、ぴろが丸くなって寝ていました。きっと真琴の寝相が悪いとか歯軋りがひどいとかのせいで逃げ出したんでしょう(ひどい言われよう)。
真琴はぴろを連れて帰りたがりますが、「寝てるんだからそっとしとけ」と祐一が反対します。ネコを布団に入れたら、そりゃ手放したくなくなるほどの暖かさですからねぇ。
「じゃ、真琴もここで寝る」
とんでもない提案をする真琴。そのまま返事も待たずにベッドに潜り込み、ベッドでくうくうと狸寝入り。しかたがなく祐一はベッドから出ようとしましたが、パジャマのすそを掴んで引き止められます。
大きくため息をついて、祐一は真琴と並んで横になりました。
そのまま時間が過ぎ、真琴もいつしか本物の寝息を立てて眠っていました。
しかし祐一はあることが気にかかって眠れずに、ときおり眼を開けて彼女の様子をうかがってました。
「ずっと――」
真琴が寝言を呟きました。上体を起こしてその顔を見ますが、眼を閉じたままうっすらと涙を浮かべています。
「――ずっと、一緒にいられると思っていた。ただ一緒に居たかった。ずっと、ずっと一緒に居られると思っていたのに」
その言葉で、祐一の中の疑念が確信となりました。
――夢。
夢の中にいるような気がする。長い夢の中に。
十年前、こんな風に俺と寝ていたあいつ。
丘で怪我をしてたあいつを、俺は手当てしてやった。
それから誰にも内緒で、ここで一緒に暮らしていた……
過去の日の夏の思い出。
幼い祐一の隣にいたのは、一匹の子狐でした。
次の日の学校。
祐一はあのテラスに美汐を呼び出していました。
「真琴は……人じゃないんだな?」
「そうです」
その言葉を美汐はあっさりと肯定しました。言い出した祐一の方が、逆に呆然としてしまいます。
「信じられないのはわかります。私も同じ気持ちでしたから」
「……君も、同じ経験をしたのか」
祐一の言葉に、美汐はわずかに顔をそむけます。
「どういうことなんだ。あいつはなにが目的なんだ」
「ただ会いたかっただけです。そのために人の姿になり、丘を降りてきたんです。今、相沢さんは束の間の奇跡の中にいるんですよ」
「奇跡……」
「そしてその奇跡とは一瞬のきらめきです。あの子が自分の命と引き換えに手に入れた、わずかなきらめきです」
「命と引き換え……」
「奇跡を起こすには、二つの犠牲が必要です」
彼女は、二本の指を立て、一本ずつ折っていきます。
「記憶と、そして命」
「それって、まさかあいつの命がもう……」
「あの子は何も知りません。でも少しずつ体力が衰えて、人のように振舞うことが難しくなっていくでしょう。病院や医者にはなにもできません」
何度も手から箸を落とし、何も無いところでよく転んだ真琴の姿が脳裏を走ります。
「あいつは、なにも知らないのか。自分がもうすぐ……」
「訪れる別れは、相沢さんがあの子に情を移しているほどに悲しいものです。それを覚悟しておいてください。それから――」
美汐は顔を大きくそむけ、そこで一息に言葉を吐き出します。
「――これ以上、私を巻き込まないで下さい!」
そして背を向け、彼女はそれ以上なにも言わずに歩み去ります。
祐一はただ呆然と、その後姿を見送っていました。
第8話 終
……今回の話で真琴の謎が明らかになりましたが、それ以上に美汐演出がかっこよすぎてまいりました。
Aパートラストで眼を合わせることなく独り言のように語る姿や、Bパートラストで指を立てていくのではなく折ることで「二つの犠牲」を数えるところなんか素敵過ぎです。
ところで、祐一が子狐を拾ったのが十年前って……Kanonは、七年ぶりの再会がテーマの作品じゃなかったでしたっけ?(栞を除く)さすがに7年前に集中させるとせわしなさ過ぎるということで分散したのでしょうか? しかし、キタキツネって10年も生きたかなあ……まあ妖狐ですし。
次回「第9話 子狐の子守唄(ベースーズ)」
なんかそのものズバリのタイトルです。前の予告とは正反対に、ろくに喋らない真琴が印象的です。真琴は……
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