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夜。寝静まった家の中で、足音を忍ばせて祐一の部屋に近づく怪しい影がありました。言うまでも無く真琴です。
「……あはは」
静かに扉を開け、含み笑いをもらすとベッドへと近づきました。そこまで忍んでおきながら笑い声を上げてしまうのはどうなのか。「なぜお前が勝てないかというと笑うからだ!」とか言いたくなります。
布団に手を伸ばそうとしたとき、突然部屋の灯りがつきました。
「なんの用だ。こんな時間に」
顔をしかめながら祐一がそう言いました。すでにベッドから降りて、部屋の隅に隠れていたようです。ベッドには丸めた布団をつめてカモフラージュしていたあたり、かなり用意周到です。もしかしたら、寝る前から準備していたのかもしれません。まるでアップルシード(コミック版)。
奇襲を見抜かれた真琴は「遊びに来たのー」と誤魔化しますが、その手にハサミが握られていることがあっさりバレてしまいます。
「大方、俺の髪の毛でもちょんぎるかなにかするつもりだったんだろ!」
厳しい口調で詰問する祐一。イタズラってレベルじゃねえぞ! という気分なんでしょう、たぶん。
責められた真琴は必死に「ハサミを使って紙飛行機を作る」説を主張し、実演とばかりにそこらにあるノートを切って飛行機を作り、祐一に向けて飛ばしました。
「ん……あーっ!」
ですがそのノートには、明日提出の宿題が書かれていたのです。紙飛行機の折り目がついた宿題など、先生に出せそうにありません。
「俺は明日、こんなのを出すのかよお!」
書き直す気は無いみたいです祐一。頭を抱えて大声で嘆きます。
さすがに真琴もやりすぎたと思ったのか、「おやすみー」と一声残して大慌てで部屋から出ていきました。
「……まったく」
真琴がいなくなると一瞬で真顔に戻る祐一。どうやら、真琴には叱るよりもおおげさに悲しむ方が効果的なのではないかという企みのよう。
その企みが成功したとはいえ、切られたノートが元に戻るわけでもなく、無残な姿をさらす宿題をみてため息をつく祐一。
彼がこの後、宿題を書き直したかどうかは謎です。
第7話 家出と仔猫の遁走曲(フーガ)
次の日の朝。祐一は名雪と朝食をとっていました。
「いっちごじゃむー、いっちごじゃむー」
珍しく早起きをした名雪が、ご機嫌でトーストにジャムをたっぷり塗っています。
「お前って昔から、イチゴジャム好きだったよなあ」
祐一が呆れ気味にそう言いました。しかしいくら大好物でも、トーストと同じくらいの厚さに塗るのはやりすぎです。パン食べてるんだかジャムすすってるんだかわかりません。
「お母さんのイチゴジャムがあればご飯三杯は食べられるよ」
「気持ち悪いこと言うな」
ほかほかご飯にイチゴジャム、意外と美味しいのかも……と考えてしまう私は、味覚がおかしのでしょうか。
と、そこに秋子さんに連れられた真琴が現れました。まだパジャマ姿で、いかにも眠そうな顔をしています。
そういえば真琴は今日から、保育所でアルバイトをすることになったのでした。ですが当の真琴はいかにもやる気なさげな顔をしています。
それを見た祐一が「働かざるもの食うべからずだ」などと説教してますがコイツも働いていません。それどころか女の子にちょっかいを出してばかりです。なんてことだ。
「そうだ。バイトが決まったお祝いに、アレを食べてもらおうかしら」
いかにも名案とでも言うように、満面の笑みを浮かべて提案する秋子さん。名雪と祐一は凍りつきました。アレとは、もちろん例の甘くないジャムです。
秋子さんはいそいそとジャム瓶を出し、トーストに塗りたくりました。
(ああ、あんなにいっぱい塗ってる……)
(俺たちにできるのは、見守ることだけだ)
ものすごく楽しそうに謎ジャムトーストを準備する秋子さんを見ながら、名雪と祐一はひそひそと会話を交わします。
一人、真琴だけが理解できていません。「いっぱい食べてしっかり働いてらっしゃい」と差し出されたトーストを笑顔で受け取りました。いつも優しい秋子さんが薦めるから美味しいに違いない……なんの疑いもなくそう思っているのでしょう。
「いっただっきまーす」
そう言って謎ジャムトーストにかぶりついた真琴を、
ぐにゃあ……
謎の福本演出が襲いました。
「あぅー」
ほかならぬ秋子さんのオススメだけに、不味いと吐き出すこともできず、うめくだけの真琴。助けを求めるように祐一や名雪の方を見ますが、彼らは目を逸らして己の保身に走りました。
孤立無援で、食べ進むことも口から離すこともできずに、真琴はすっかり涙目です。秋子さんはあくまで優しく語りかけます。
「遠慮しないで、たっぷり食べてね」
「あぅー」
「まだまだいっぱいあるから」
「あぅー」
その後、真琴の消息を知るものは誰もいませんでした(そんなことはない)。
「真琴、大丈夫かなぁ」
「きっと大量に食わされたぞ。アイツ、秋子さんにだけは逆らえないから」
真琴を見捨てて登校する二人。酷いようですが、自分の命を守るためにやむをえない行為なのです。いわゆる緊急避難。
まだ真琴の安否を気にしている名雪ですが、なにかを見つけて足を止めました。
「ん?」
その視線の先をみると、塀の上に一匹の猫がいました。
「かわいい……」
「なんか、可愛げが無い猫だな」
「うっ! そんなことないよ! 祐一、おかしいよ!」
いつものように憎まれ口をきいた祐一に対し、真剣に反論する名雪さん。その真面目さは、京アニKanonが始まってから一番のものです。こんなどうでもいいとこでー。
名雪はすっかり糸目になって、フラフラと猫に近づいてゆきます。しかし祐一が手を引いてとめました。
「待った! お前、ネコアレルギーだろ」
「そうだけど……でも可愛いもん」
「昔もそうやってネコに触って、くしゃみが止まらなくなっただろ!」
祐一は必死に引き止めましたが、名雪さんはあっさり振り切って猫の元へ。
「かわいいっ。かわいいっ。ねこっ、ねこっ」
「……どっちが動物かわからないな」
ところで今日の祐一。イチゴジャムといいネコアレルギーといい、昔のことをよく口にしています。七年前の想い出が戻ってきているのでしょうか?
休み時間となった学校。案の定ネコアレルギーで涙が止まらない名雪を置いて、祐一は中庭へとでかけました。もちろん目的は栞です。
「こんにちは、祐一さん」
「また来たのか」
「はい。また来ました」
栞はいつものストール姿です。しかし原作ゲーム版と違って、ストール以外の服装は毎日変化しています。今日は黒のハイネックに膝まであるスカートと、昨日よりは暖かそうな装い。
「そんなに元気なら、授業に出たらどうなんだ」
「出歩くぐらいは平気なんです。でも、お医者さんはまだ学校に行っちゃだめだって」
「なら、家で寝てろよ。完全に治してから、堂々と出てくればいいだろ?」
「でも、家で閉じこもってると、ますます悪くなるような気がして」
そう言って笑い、歩き始めます。栞は歩きながら喋るのが好きみたいです。
「祐一さん。約束、憶えています?」
「約束?」
「そのうち一緒に雪だるま作ってくれるって言ったこと。10メートルくらいの、特大の」
「……10メートルは保証できないって言ったはずだけどな」
「でも、期待していますから」
遥か向こうにかすむ雪山を背にして、栞は微笑みました。
えー、ちなみに今回からなるべくセリフや描写文を減らして、この視聴記を短くまとめるように努力しはじめたのですが、栞のシーンだけはセリフをすべて取り込んで描写もバリバリします。
だって、なんか栞だけ演出が優遇されすぎてて面白いんですもの。セリフもクサくなっててまるで韓流ドラマみたい! そのうち祐一が笑顔のまま滂沱の涙を流しそうです。
昼休み。祐一はまた名雪を置いてどこかに出かけます。それを見て香里は「なんだかいつも駆け回ってるのよね、あの人」と呆れ気味。
祐一は全ヒロインのフラグを立てるのに忙しいのです。
「舞、あれからどうだった? 例のものは出たのか」
今回のフラグ立ては舞でした。いつものように、屋上への扉の前でシートを広げて、舞や佐祐理さんと一緒にお弁当です。変な場所で食べてるなあと思いましたが、きっと冬以外は屋上で食べているのでしょう。
それはさておき、祐一は昨日の魔物の様子が気になるようです。しかし答えることなく無言で食べ続ける舞。
「イエスかノーか」
業を煮やして、山下将軍のように回答を迫る祐一。舞は一言だけ「ノー」と呟きます。
「そうか……出ない日もあるのか」
「なんの話です?」
夜の校舎の舞を知らない佐祐理さんが訊ねてきます。
「舞のお通じの話だ」
食事時になんてこと言うんでしょうか祐一。
しかし、舞はまったく気にした様子もなく無言で箸を動かしています。
「コラコラ! 否定しないからまた信じてるだろ佐祐理さん!」
明らかに自分が悪いのに、舞のせいみたいに言ってます祐一。酷いヤツです祐一。
時間は流れて、放課後。
商店街を歩いていた祐一は、いつものように後ろから激突してきたあゆと2つ3つ言葉を交わした後、特になにもせずに別れます。
なにしに出てきたんだよあゆ、と思いますが、このようになにもなくとも毎日顔を見せて、お互い声をかけあうことが恋愛には大事なのでしょう。今の祐一とあゆは恋愛関係にあるようには見えませんが。
あゆと別れた後、祐一はあてもなく商店街を歩きます。
商店街と書きましたが、ブティック系の店が目立ち、魚屋さんや八百屋さんはないみたい。近所の奥様が買い物カゴ提げてくるようなところじゃありません。札幌で言えば大通−すすきの周辺を思わせます(ローカルネタ)。
繁華街とした方がしっくり来ますが、祐一が商店街と言ってるのでこれからもそう書きます。
真琴のやつ帰ってきてるかな、と考えながら祐一が歩いていると、ゲームセンターの前にボンヤリ立っている、見覚えのある後姿を発見しました。
「――あの殴り心地の良さそうな後頭部は」
真琴です。酷い言われようです。
「お前も撮りたいのか?」
「うわぁ! 祐一!」
背後を取られた真琴は慌てて飛びのきます。世が世なら命はありませんでした。
こんな隙ができたのも、さっきからプリクラを撮っている女生徒を放心したように見つめていたせいです。
祐一は、あゆでも誘って一緒に撮れよ、などと言います。しかし真琴は「あんなので喜ぶなんてお子様だもん」と意地を張ります。本当にこいつはガキだなあと呆れる祐一。
そのまま二人は口喧嘩をしながら、ゲームセンターの前から去ってゆきます。
その様子を離れた場所から、赤髪の少女が無言で見つめていました。
ここでAパート終了。CMで映画「麻雀放浪記」などの紹介が始まります(なんで?)。
4話から6話まで、真琴が大きく扱われていましたが、今回はまごうことなき主役です。名雪もあゆも舞も出てきましたが、どれも顔見せ程度でした。
CMで「0091(ゼロゼロナインワン)」などが紹介されてますが、それはどうでもいいとしてBパートです。
「――で、保育所の手伝いどうだったんだ?」
「ら、楽勝よあんなもん。ちゃんとコラッて叱ったり、よしよしって頭なでてあげたりしたもん」
「本当か? 信じられんな」
いつものように真琴からかいをする祐一ですが、真琴はそれで機嫌を損ねてしまいます。「あんたなんかと一緒に帰りたくないわよぅ!」と言い残して、どこかに去ってしまいました。
ため息をつく祐一。しかたがなく自分の買い物をしようと歩き出すと、後ろから怪しい影がついてきます。
振り返るととっさに隠れる真琴、しかし丸見え。怪しい影という比喩を使うのも惜しい程度の尾行能力です。
面と向かっては意地を張るのに、本当はなるべく近くに居たがる真琴。そんな彼女に祐一は「隣、歩けよ」と優しい声をかけました。
真琴はそれ以上意地を張ることも無く、しぶしぶといった感じで従いました。
「お前って、困ったときにはあぅーって言うよな」
「え、そう?」
「……気が付いてなかったのかよ」
嬉しいときも悲しいときもうぐぅな少女とどっちが上なのでしょうか。
そんな話をしながら商店街を歩く二人。するとどこからか猫が寄ってきて、真琴の足にじゃれつきました。
「……今朝の猫だ」
「ちょっとやだ、なにこの猫。やめてよぅ」
名雪を寄せ付けようとしなかった猫ですが、真琴に対してはじゃれついてきます。しかし真琴は困惑顔。
「ほら、抱いてみろよ。あったかいぞ」
祐一は猫を抱えあげてそう言いますが。真琴はけっこう本気で嫌がっています。
苦笑しつつ「帰りに肉まん買ってやるから」と祐一は物で釣って真琴に猫を抱かせました。なぜそこまでして抱かせたいのか。
真琴が恐る恐る抱いてみると、猫はその腕をするりとくぐりぬけて真琴の頭の上に陣取りました。この猫、真琴より立場が上だと思ってます。
「そこが居心地いいみたいだな」
「あぅー」
やっぱり真琴は迷惑顔。実際に猫を頭の上に乗せた人ならわかるでしょうが、奴ら滑り落ちないようにと必死で爪を立てるのでかなり不快です。あんちくしょう。
(試す方がバカです)
その後、祐一は約束どおり肉まん屋へと向かいました。『狐不理包子』という看板が掲げられたお店で、直訳すると「狐は中華まんを取り合わない」となり、なんとも意味深。
「一人一個ずつだ。その猫にも一個」
そう言って祐一は肉まんを差し出します。……猫に肉まんってあげてもいいんでしょうか?
「わあ、いいにおい。いっただっきまーす」
目を輝かせてかぶりつこうとする真琴。しかし頭上にいた猫が、素早く肉まんを奪っていきました。
「あぅー! 真琴の肉まん! 返せそれ真琴のー!」
逃げる猫。追いかける真琴。両者は祐一の周囲をぐるぐると回ります。しかし一度猫がくわえた(しかも地面に落ちてる)肉まんを取り返しても、それを食べられるんでしょうか真琴。
あまりに騒がしく駆け回る真琴に、祐一は「やめろよ」とチョップを食らわせました。けっこう本気でやったのか、真琴はもう涙目。
「猫と同じレベルで喧嘩してどうする。こっちの食えばいいだろ、まだ2つ残ってるし」「あ、そうか」
「お前の頭は動物並みだな」
そうしているうちにすっかり日は暮れて。
祐一と真琴は、歩道橋の上から街を見下ろしていました。
「その猫どうする? 連れて帰ってやりたいけど、名雪がな……」
困った顔をする祐一。ところで、秋子さんが認めない可能性は考慮しないのでしょうか。
「別に考えなくていいじゃない。肉まんも食べたし、用無しよ」
「お前、凄いこと言うな。そんなに懐かれているのに、可愛いとか思わないのか」
「動物なんて、いらなくなったらポイでしょ。祐一はそう思わないの」
「そりゃ、そういうふうに考えるやつもいるけど」
真琴は「なまじ人に飼われて平和な暮らしを知るより、このまま野に帰してやるべきよ」と言います。ここまではまったくの正論ですが……
真琴は猫を落としました。歩道橋から、下の道路めがけて。
「なにやってんだよ! お前は!」
祐一は真琴を怒鳴りつけます。
猫は間一髪でトラックの荷台に落ちて助かったようですが、一歩間違えれば轢かれて死んでいました。仔猫を落として殺すだなんて、世論に知られたら総叩きにされる行為です。
「な、なに怒ってるの?」
「お前、あんなことしてどうして冷静でいられるんだよ!」
祐一は怒りをぶつけます。反論しようとする真琴に思わず拳を上げますが、結局振り下ろすことなく「このバカ!」と怒鳴ります。
「いいわよもう! 祐一なんて!」
そう叫んで、真琴はどこかへ走り去って行きました。
夜。水瀬家の食卓。
四人分の膳が用意されていますが、そこには三人しかいません。
祐一は不機嫌もあらわに箸を動かしていますが、名雪は心配そうな顔をしています。
「きっと、今頃お腹空かせてるね」
「同情することなんかないぞ。生き物の命を粗末にする奴は、しばらく一人で反省すればいいんだ」
祐一はなおも怒りながら、ご飯をかっこみます。
「でも、もしこのまま帰ってこなかったなら?」
「大丈夫よ。真琴の家はここしかないんだから。もし、記憶が戻って自分の家に帰ったんなら、それにこしたことはないんだし」
名雪と秋子さんの会話を聞きつつ、祐一はお椀を置きました。
「ごちそうさま。ちょっと出てきます」
そう言ってコートを羽織り、祐一は外へと出掛けました。
「探すって言っても、あいつのいそうなところなんて、わからないしな。
さっきまでの怒りはどこかに消え、わずかに心配そうな顔を見せる祐一。名雪と秋子さんの会話のどこかに、祐一を反省させるところがあったのでしょうか。
肉まん屋、ゲームセンター、歩道橋など、今日真琴と歩いた場所をたどりますが、まったく見つかりません。
「考えてみりゃ、あいつのことなんにも知らないのか」
と、そこで祐一は顔を上げます。あと一箇所だけ、心当たりを思い出したのです。
夜の校舎。もちろんここは舞のテリトリーです。
「よお、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
声をかけられた舞は振り向きます。
祐一は、真琴がここに来てないかと訊ねますが、舞はあっさり「来てない」と答えます。
これで探す当ても無くなったとがっかりする祐一に舞は、
「ものみの丘。街を見下ろす丘。あそこにいるかもしれない」
そう言いました。当然、祐一は聞き返します。
「どうしてあんな場所に? なんでそんなことがわかるんだ」
「……そんな気がしただけ」
首を傾げつつも他にあてもないため、祐一はものみの丘へと向かいました。
「ものみの丘、か……そういや、そんな名前だったっけ」
一人丘の上に立ち、そう呟きました。
一度、名雪に案内されて上ったことがあります。しかしあの時は雪が積もってましたが、いまは雪もなく青々とした草が茂っています。なぜか、ぼんやりと地面が青く光ってました。
ぐるりと見回すと、ひときわ光る草の上に、仔猫と人影がありました。
真琴とあのときの猫です。
「はい肉まん。これで最後だよ。もうおこづかい残ってないから。……ふふ、冷めちゃったけど美味しい」
真琴はそう、淋しげに笑います。猫も一声鳴いて返事をしました。
彼女は猫を抱き上げます。
「あったかーい。……あたしたち、一緒だね。邪魔者でどこへも行けない。……寝ようか、夕方からずっときみのこと探して疲れちゃったし。本当、疲れた……」
真琴は倒れこむように、草地へと横たわりました。
祐一はそこにゆっくりと近づき、猫を抱き上げます。
「そうか、ずっとお前のこと探してたのか。よく見つけられたなあ? それともお前の方から商店街に戻ったのか?」
猫に語りかけます。にゃーという返事。祐一は微笑んで、寝ている真琴のそばにかがみこみました。
「おい真琴、風邪引くぞ。帰ろうぜ。お前は俺たちの家族なんだからな」
目を覚まさない真琴を背負って、祐一は家へと帰りました。
帰りの山道で一匹の狐に出会います。その狐は尾が二つに分かれているようでしたが、祐一はそれに気付きませんでした。
「あぅー! ここどこ? なんでこんなところにいるのー!」
寝静まった夜の水瀬家に、真琴の叫びが響き渡りました。
「どうしたんだ、真琴」
寝床から起きた祐一が、階段のすぐ下で目を回している真琴に声をかけました。どうやら階段から滑り落ちたようです。冬山で眠るのと同じくらい危険です。
秋子さんに助け起こされた真琴が、不思議そうな顔をします。
「あれぇ? どうして真琴、このお家に戻ってきてるの?」
「そりゃあ、ここがお前の居場所だからだよ」
「えっ?」
「記憶をなくしている間は、ここがお前の家なんだ。だから家出した悪い子は、力ずくでも連れて帰ってくる」
教え諭すように言う祐一。
「祐一が運んでくれたの?」
「そうよ、真琴を背負って連れて帰ってくれたの」
秋子さんが、微笑みながら答えます。
「あの猫は?」
「お前の部屋で寝てるよ」
そう言う祐一の後ろから、眠たげな名雪が姿を現します。
「わあ、帰ってきたんだね」
「お腹空いたでしょう。今何か、あったかい物作るからね」
そう言って秋子さんはキッチンへと向かいました。
4人でダイニングテーブルを囲み、秋子さんが作ってくれた料理で夜食会です。
得意げになにかを語っている祐一。それを聞いて笑う名雪。微笑みながら見ている秋子さん。
そんな家族の情景が、真琴にはとても輝いて見えたのでした。
第7話 終
真琴編の中盤が終わった、という感じです。
しかし真琴の猫落とし。原作ゲームの段階でも「ひでえ」と思いましたが、こうしてアニメにされると殺す気にしか見えません。
真琴がいたものみの丘も原作どおり光ってましたが……あの光はなんだったのやら。チェレンコフ光(放射能で青く光るアレ)だったらどうしよう、などと思ってしまったり。
ですが真琴シナリオの結末を知っている身からすると、今回の無茶な真琴行動も、ラストの家族団らんも、とても切ないものに見えてしまいます。
次回「第8話 追憶の幻想曲(ファンタジア)」
「ねえ、紙飛行機作ろう。紙飛行機」「ほら、新しい漫画買ってきたの。一緒に読もう」「悪い?」「可愛い!?」「なに?」「ほんと!」「だめかな」「むぅ、べー。あははっ」「んんんー!」
次回予告で、真琴が祐一に語りかけている姿が、断片的に次々と映し出されます。こ、これって。
本編以上に、予告に心を揺さぶられました。これはまるで、今はもう亡き人を思い出すかのような……
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