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――夢
夢を見ている
誰かを待っている夢
遠くに聞こえる雑踏の中で
小さなベンチに座って、たった一人で
来るはずのない人を
何時間も、何日も
そして……何年も
月明かり差し込む夜の校舎。
他に誰もいない廊下で、祐一は剣を持った少女と向かい合っていた。
「川澄舞さん……だっけ? 何やってるんだ。演劇部の稽古か?」
訊ねてみても、返事はない。
「昨日、会ったよな。一昨日も」
夜の学校で一人、制服姿の少女が剣を携えて、無言で立っている。
そんな非現実的な状況に圧倒され、なんとか現実との接点を集めようとあがくように、声をかける。
だが、舞は返事どころかまばたき一つしない。
「ああ、えーと……」
なにか別の言葉を探していたそのとき、祐一の背後で音が響いた。
「あ?」
振り向くが、とくになにも異常は見当たらない。
だが確かに音がした。固い床になにかを叩きつけるような、あるいはなにかを爆発させたような。なんにせよ無人の学校では発生しないような音。
「なんだ……今の音は」
問いかけるように視線を戻した次の瞬間、舞が動いた。
十歩近い距離を一足で詰めて、祐一の方に突進してくる。
「いっ!?」
驚いて立ちすくんだ祐一は、見えない力で横殴りに吹き飛ばされた。舞はそのまま直進して通り過ぎ、さらに数歩進んだところで剣を振るう。
だが、そこには何も無い。まるで、不可視の敵に斬りかかったようだった。
逃した――とでも言わんばかりに、舞は剣を床に突き立てて、呼吸を整える。廊下に刺さったときの甲高い金属音が、オモチャを振り回しているのではないと主張していた。
再び舞は剣を構え、遠ざかろうとする。
「おい待てよ!」
それを祐一が呼び止めた。
「なんだったんだ……今のは」
舞は一瞬足を止めたが、それを無視して再び歩き出す。
「待てって!」
その背中に叫ぶ。舞はしかたがなさそうに祐一の方を振り向き、答えを返した。
「わたしは魔物を討つ者だから」
第5話 魔物たちの小夜曲(セレナーデ)
というわけで、舞のシーンから始まりました第5話。静と動で構成された舞の動きがなかなかにかっこいいです。ちょっと逆袈裟っぽく斬り上げるときに、ガニマタになっているところも可愛いですし。
アクションシーン時のミニスカートの動きが危うげで、コマ送りで見ているときにヒヤヒヤしました。
……いや、コマ送りにするのは、描写文を書くときに必要なことなのでやむなくやっただけです。本意ではありません(言い訳)。
「ただいまー」
祐一が水瀬家に帰ってきました。あのあと舞と何があったのかは描写されてませんが、たぶん一言だけ宣言した舞がそのままどこかに去ってしまったのでしょう。
そんな祐一を名雪が迎えます。
「おかえり。中に入れた?」
「戦利品だ」
と、祐一はノートを差し出します。そういえば舞に会いに行ったのではなくて、名雪のノートを取ってくるのが目的でした。
「あんなに警備がずさんな学校はないなあ。こんど校長の机だって持ってきてやるよ」
「そんなのいらないよ」
「校長ごっこができるぞ。『チミ、退学ね』とか言えるぞ」
「したくないよ、そんなの」
「……風呂沸いてるか? 体冷えちまった」
「用意してあるよ。……あっ! あとでマッサージしてあげようか?」
名雪のその言葉に祐一はあいまいな笑みを浮かべ――
「……なんだったんだ、あれは」
脱衣所の鏡の前で、祐一は一人そう呟きました。
まあ、夜の学校に佇む舞のことを考えていたのでしょうが、冗談を真に受けて親密度を上げようとしてくる名雪に警戒感をもってのセリフとも受け取れます。……警戒感?
結局、名雪にマッサージを頼んだのかどうかはっきりしてほしいところです。
ともかく湯を浴びようと、祐一は浴室のドアを開けました。
「……ん?」
そこには、真琴が湯船につかってました。当然両者とも全裸です。
祐一はヘソから下は画面外ですが、真琴はばっちり胸が見え……
『最近インターネット上での不正な利用が多発しております。番組の画像や映像を権利者の許諾なくインターネットを通じて配信、配布したりすることは法律で固く禁じられておりますのでご注意ください』
……
…………
………………
字幕のテロップで大事なところが隠れた!!
……い、いや。このテロップは今までのKanonのみならず、BS−iで放映されるアニメすべてに流れるものなのですが。こんな大事なシーンでこんな重要な部分を隠すように流れるとは!
京都アニメーションの演出がすごいことは前から知っておりましたが、テロップさえも演出の道具にしてしまうとは想像を絶してます。
「よ、よお! 悪かったなー、考え事してたからお前がいること気付かなくってさー。まあここで会ったのもなにかの縁だし。せっかくだから、一緒にはい……」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
なにごともなかったかのように取り繕おうとした祐一ですが、当然真琴には絶叫をもって迎えられました。
「でてけぇー!」
凄い勢いで飛んでくる浴室グッズの数々。中には通水カップや招き猫や金ダライまで混じってます。なんで?
「いたたたたたたたた! ってかどこにあったのコレ!?」
そんな祐一の叫びももっともです。しかし祐一の声優はこういう演技させると上手いなあ。
「あぅー」と叫んで浴室から逃げ出す真琴。祐一は金ダライ直撃で痛む鼻を押さえつつ、とりあえず空いた浴室へと入りました。
すっかり体も温まり、ジャージ姿で脱衣所から廊下に出てきた祐一。
ふと横を見ると、真琴がバスタオル一枚の格好で震えてました。真冬の廊下に立っているには寒すぎる装いです。
「一緒に入れば良かったじゃないか。同じ家で暮らしてるんだから、それくらいのことはあってもいいだろ?」
一片たりとも自分の非を認めず、そんな非常識なことを言う祐一。
「あってたまクチュン!」
「まこピー語か?」
「あってたまるかってのとクシャミが重なっただけよぅ!」
「ちゃんと拭かないで飛び出すからだ」
どこまでも真琴のせいにする祐一。とんでもない男です。
「あぅぅー。見たいテレビがあったら、今夜中に見ときないさいよ。クチュン!」
そんな憎らしい男を指差し、処刑宣告を出す真琴。でもくしゃみのこともあり、凄みのカケラもありません。
「……真琴、『魔物を討つ者』って十回連続で言えるか」
「え、なんで?」
「いいから言ってみろって」
「まものをうつものまものをうつものまものをうつもっ! ……あぅ、舌噛んだ」
「そうなると思った」
朗らかに笑う祐一。どこまでサドなのかこやつは。
「あぅー。おぼえてなさいよ!」
捨て台詞を残して脱衣所に入り、勢いよくドアを閉める真琴。しかし自分の足を挟んでしまい、激痛に飛び跳ねることに。真琴は今日は厄日です。
まあ真琴は、毎日が厄日みたいなもんですが(ひどい言われよう)。
夜も更けて、灯りを消してベッドで横たわっている祐一。その脳裏に、夜の校舎で会った舞の言葉が浮かびます。
『わたしは魔物を討つ者だから』
その言葉がなぜか強く印象に残っています。昔、ゾルゲ市蔵というゲームライターがKanonをプレイして「魔は討つものじゃなくて降すものだろ」とツッコんだのが気になってしょうがないのかもしれません。
と、いつものように不審な物音が。
「クチュン! ……クチュン!」
――物音がする前に、小さなくしゃみが聞こえてきました。祐一は嘆息し、寝床から静かに起き上がります。
ドアがゆっくりと開き、両手に洗濯バサミを持った真琴が入ってきたところで、
「ハイ、ゴクローサマです!」
ドアのすぐ横で待ち構えていた祐一は、真琴を軽々と抱え上げました。
「あうぅー、なにすんのよぅ!」
真琴の抗議を無視して、担ぎ上げたまま真琴の部屋まで連れて行き、布団へと落としました。
「風邪ひいてるんだからおとなしく寝てろ」
「イターイ! 今度こそトドメさしてやろうと思ってたのにぃ」
「風邪こじらせたらどうする。元気になったら、かまってやるから」
そう言って、真琴の肩まで布団をかけてやります。
「あぅ?」
「寒くないか?」
「う、うん。大丈夫」
途端にしおらしくなる真琴。
「……祐一」
「なんだよ?」
「今日のところは礼を言っておくけど。その……ありクチュン!」
「まこピー語か?」
「ありがとうとクシャミが重なっただけよぅ!」
「肩、出して寝るなよ」
「うん……」
そうして部屋の電気を消して去ってゆく祐一。例の、落としてから持ち上げる、祐一の常套手段です。
しかし、女の子をいじめる愉悦さを満喫しつつ好意まで得られるとは……ぜひわしも習得したいテクニックだにゃー、テヘヘ。
次の日の朝。
「おはようございます」
「おはよう、祐一くん!」
「ああ、おはよう」
制服を着てダイニングに現れた祐一を、秋子さんとあゆが笑顔で迎えます。
祐一はあゆの前に座り、すでに準備されていた茶碗を手に取ります。
「いただきまーす。名雪のやつ、まだ起きてないんですか?」
「ゆうべ遅くまで宿題してたみたいだから、もう少し寝かせておいてあげましょう」
あゆにご飯のおかわりをよそいつつ答える秋子さん。祐一は食卓にもう一人いないことに気付きます。
「真琴は?」
「風邪気味らしくて、まだ寝てるの。大したことはなさそうなんだけど」
あゆからの卵焼きのおかわりリクエストを受けつつ答える秋子さん。名雪と真琴の不在はすべて祐一が原因のようですが、本人はそれを気にした様子もありません。なんてやつだ。
「秋子さん! このお漬物、すごくおいしいよ!」
「そう。いっぱい食べてね」
笑顔で朝食を食べるあゆを見ながら、祐一は自分も食べ始めようとしますが、
「って、なにやってんだあゆ!」
今頃そのことに気付き、立ち上がって叫びます。
「……朝ごはん」
あゆはキョトンとした顔で答えます。
「じゃなくって、なんでここにいるんだ!」
「ごはん食べてるから」
「自分の家で食え!」
「……うぐぅ」
泣きそうになっちゃうあゆ。
「わたしが招待したんです」
と、秋子さんがフォローを入れます。祐一の体から力がカクンと抜けました。というか、客に対してものすごく失礼な態度です祐一。
「外にゴミを出しにいったとき、偶然あゆちゃんが通りがかって」
「秋子さんって、料理得意なんだね!」
秋子さんがおかずのおかわりを取りに行ってる隙に、祐一がこっそりとささやきます。
「そのうち、特製ジャムも食ってみるといいぞ。この世のものとは思えない味だ」
「うわぁ、楽しみだよ!」
無邪気に笑顔を浮かべるあゆ。無知とは幸福なものです。
「どうも、ごちそうさまでした」
朝食も終わり、あゆは帰ることとなりました。玄関まで秋子さんと祐一が見送ります。
「またいつでも遊びに来てね」
「はい!」
「それじゃあな、あゆ」
「うん! バイバイ、祐一くん」
左手を小さく振って、あゆは笑顔のままで駆け出していきました。
「……本当に元気な女の子ですね」
感慨深そうに秋子さんが呟きました。
そのとき、カラカラとアルミサッシ窓の開く音がしました。
「おはようございまーす……」
名雪でした。
「おはよう。すぐにご飯にするわね」
秋子さんが挨拶を返しますが、名雪はまだパジャマに半纏姿で、目もちゃんと開いていません。呆れたように祐一が言います。
「急がないと、また遅刻だぞ」
「くー」
「寝るなっての!」
時間は進んで、学校。
「おい、名雪。……名雪」
チャイムの鳴り響く教室で、名雪は祐一に揺り起こされました。
顔を上げると、教室には二人しかいません。
「あれ……みんなは?」
「帰った。すでに放課後だ」
そういえば前日は成人の日(推測)でしたが、1999年の成人の日(1月15日)は金曜日。だったら三連休となり、16日であるこの日は休みでは? などという疑問が出てきます。
ですが、1999年は公立校が完全週休二日制になっていないため、土曜日は午前中だけ授業があるのでした。
……でも、あんなエキセントリックな女子制服を採用する学校が公立だったらちょっと嫌。
教室から出て廊下を歩いているときも、名雪は半分寝てました。今日はなんかずっと糸目です。
「お前、部活中も寝てるんじゃないだろうな?」
「そんなことないよ。わたし部長さんだし、それに大会も近いし」
祐一の言葉に、名雪は目をしゃきっと覚まして反論します。さすがに体育会系だけあって、こういうプライドはきちんとあるのです。
「……まあたしかに、頑張ってるみたいだな」
「くー」
「って、だから寝るなってのに!」
せっかく見直したというのに、名雪さんはまた立ったまま寝ておりました。
「さて、と」
名雪を部活まで送った後、祐一は思うところあって校舎をうろつきます。
「……いた」
しばらくして、廊下で棒立ちのまま外を見ている少女を見つけました。
「川澄舞さん」
名を呼ばれて、少女は振り向きます。
「ゆうべ会ったよな? このあたりでさ」
「…………」
舞は無言で、視線を窓の外へと移します。
「なにしてたんだ? あんな物騒な物持って」
「…………」
「魔物って、何?」
「…………」
「返事ぐらいしてくれてもいいんじゃないかな」
「…………」
なんか祐一、普通にナンパしてる軽薄男にしか見えないですよ!
「『はい』でも『いいえ』でもいいからさ」
「…………はい」
「いや、まんま『はい』って言われても」
いかに祐一といえども、このつかみ所のない少女の心を捉えるのは一筋縄ではいかないようです。
「舞ー、ごめーん」
そのとき、別の女子生徒がこちらに近づいてきました。髪を留めるチェックのリボンが特徴的な少女、倉田佐祐理さんです。
「って、あれ? 舞と、おはなししていたんですか?」
佐祐理さんは不思議そうな顔をして訊ねます。
「愛の告白を受けていた」
祐一は大真面目な顔でそう返答しました。舞は変わらず無表情のまま突っ立ってます。
「ふえー。愛の告白」
「ほらほら。否定しないから信じちゃってるじゃないか」
佐祐理さんの様子をみて、祐一は舞をからかいます。そこでやっと舞は口を開きました
「……告白して、ない」
「遅すぎるっての」
ようやくツッコむポイントができてどこか満足した祐一。やっと佐祐理さんに本当の状況を話し始めます。
「いや、世間話をしていたんですよ」
「舞と、世間話……」
どこか呆然と言葉を反芻する佐祐理さん。わずかに考えたあと、こう言いました。
「――よかったら、一緒にお昼ご飯を食べませんか?」
「へ?」
突然の提案に、こんどは祐一の方が意表を突かれた声を上げてしまいました。
……そのころ、栞が中庭へと訪れていました。今回の話は全ヒロイン出す気か!
Aパートはここまで、CMに入ります。
『きーえるひこーきぐもー。おいかけておいーかーけてー』
「TVアニメAIR。ブルーレイディスクボックスは12月6日発売」
いま買おうかどうか一番迷ってる商品がCMされました。通常DVD版は持ってるし、ブルーレイ再生機器もないし……。
「こんにちは、木村郁美です。みなさまは、もうご加入されたでしょうか」
BS−iの双方向通信「i−アクセス」のCMです。ところで郁美ってどっかで聞いたことあるような。イクミイクミ……天沢郁未? まさか次のアニメはMOON. とか!? などと無茶なこじつけをしてみたり。
ものすごくどうでもいいことですが、ネット上に京アニKanon視聴記はいくつかあれど、CMにまで言及してるのはおそらくここだけでしょう(バカなことを自慢する)。
※MOON.
Kanonの原作ゲームを作った主要スタッフが、さらに昔に作ったゲーム。陰惨だけど泣けるという評判は聞いてますが、すごい昔の作品なので手に入りません。うぐぅ。
CM終わってBパート。祐一は、舞と佐祐理さんに連れられて、屋上へ向かう階段の踊り場へと案内されました。佐祐理さんは、隠してあったレジャーシートを広げます。
そういえば、祐一が転校初日に学校で迷ったときに、この場所でレジャーシートを見つけていたりしました。そのときの疑問が解消されて、納得のいく祐一。
床にシートを敷いて三人がそこに座り、真ん中にお弁当が広げられました。
「やっぱり、ご飯はこうやって食べたほうがおいしいと思うんですよ」
「たしかに。遠足みたいで、楽しいしな」
佐祐理さんの言葉に、祐一もうなずきます。
しかしこのお弁当、重箱に詰められた豪勢な物です。というか五段もあって、とても女の子二人が食べる量とは思えません。いや、しかし一番食欲のある年頃ですし、舞のことならあるいは……。
それぞれ簡単に自己紹介を終わらせ(舞はうながされてからようやく、自分の名前を言っただけでのものでしたが)、さっそく昼食となりました。
「……む!」
最初の一口を食べた祐一が、驚きの表情を見せます。おはぎの中に裁縫針でも入っていたんでしょうか?(作品が違う)
「どうしました?」
当然、佐祐理さんが不思議そうに訊ねてきます。
「ごっつうまい! これ、佐祐理さんが作ったの?」
「はい。お口にあいました?」
「……合格!」
「何にですか?」
「俺の嫁に」
いきなり佐祐理さんを口説き始める祐一。さっきまで舞に声をかけていたというのに、なんて男だ。
「あははー。こんなことで祐一さんのお嫁さんになれるんだったら、世の中の女性みんな祐一さんのお嫁さんですよ」
それがヤツの狙いだ!
「いやあ、この味は凄いよ。ウチの家主の秋子さんに、勝るとも劣らないうまさだ」
「ありがとうございます。でも佐祐理は頭悪い子ですから、祐一さんに釣り合いませんよ?」
「めちゃくちゃ成績良いって聞いたけど?」
「あははー。たいしたことないですよ」
あの手この手で褒め称える祐一と、それをあっさり受け流す佐祐理さん。そんな様子を気にすることもなく、舞はもくもくと箸を動かしています。
と、舞は食べる手を止め、祐一の方を無言で見つめてきました。いいかげん二人の会話が腹立たしくなってきたのでしょうか?
それを見て、祐一は問いかけます。
「なにか、食べたいのか?」
「…………卵焼き」
舞は一言で答えます。どうやらたんに手の届かないところにあるおかずが食べたくなっただけのようです。しかし、それを一瞬で察した祐一はさすがです。
「ほら」
小皿に卵焼きをいくつか取り分け、舞へと渡しました。
無言で受け取り、無言で食べ始める舞。
その様子を見ていた祐一に、ふとイタズラ心が湧いてきました。
広げられた重箱を、次々と自分の周囲に引き寄せて、舞から手が届かないようにします。
「祐一さん、なにやってるんですか?」
佐祐理さんに不思議そうな顔をされるのにもかまわず、祐一は舞を見て、心の中でこっそりと呟きました。
(この人を喋らせると、なんか勝ったような気分になるんだよなあ)
いったい何に勝ってるというのでしょうか。いや、気持ちはなんかわかりますが。
舞は、手の届かないところに移動させられた弁当をじっと見つめています。おそらく彼女の中では、食欲と無言欲が激しい葛藤を起こしているのでしょう(無言欲?)。
「食べたい物があったら取ってやるよ。遠慮なく言ってくれ」
背中を押すようにささやきかける祐一。
しばらくの沈黙のあと、舞はようやく口を開きました。
「……タコさんウインナー」
「よっしゃぁ!」
舞の言葉に、隠すことなくガッツポーズをとる祐一。
「タコさんウインナーを言わせたのは、なんとなく大きい気がするぞ」
はためにもウキウキとした動きで小皿にウインナーを取り、舞へと手渡します。
「タコさんウインナーが好きなのか?」
「……嫌いじゃない」
「タコが好きなのか? ウインナーが好きなのか?」
「ウインナー」
「タコは嫌いか?」
「……さあ」
また無言で食べ始めようとする舞に、矢継ぎ早に質問をぶつける祐一。なんとしてでも喋らせようとしたいみたいです。
「あははー。祐一さんって、面白い方ですね」
面白いというか、なんかやらしいと思ってしまいます個人的には。
そんなふうに祐一が、両手に花でうはうはしている頃。
栞は寒空の下で一人、待っていました。
「よかったら、また一緒にお食事しませんか?」
「ああ。佐祐理さんの料理は、やみつきになりそうだ」
「舞はイヤ? 祐一さんと食べるの」
「……別に」
「よかったぁ。じゃあ今度から三人分作ってきますね」
次の食事の約束もとりつけ、祐一は二人と別れました。
階段を下りる途中で、窓からちらりと中庭を見下ろします。そこにはチェックのストールをまとった少女、栞が立っています。祐一は階段を下りる足を速めました。
祐一はどうも、栞がいるのを知っていたような態度です。普通は「おや?」などと思って一瞬動きを止めたりするものですが、そんな素振りもありません。窓を見下ろした動きも、「まだいるかな」と確認するかのような……。
女性を待たせるのはマナー違反ですが、あえて相手を待たせることで期待感を高めるという心理テクニックもあります。ましてや今回、とくに待ち合わせをしたわけではないので、マナー違反だともいえません。なんて狡猾な手管でしょうか。
背後から聞こえてきた足音に、栞は笑顔で振り向きます。するとそこには期待していたとおりの人物――祐一が立っていました。
「また来たのか」
やや驚いたような祐一の声。まるでたった今、来ていたのに気付いたといわんばかりです。おのれ。
「はい。また来ちゃいました」
だからそんな嬉しそうな顔しないで下さい栞。にげてーこれはワナよー。
と、まあ。邪推はここらへんにして。
青空の下の雪道を、祐一と栞が歩いていました。
「名前は……栞だよな。名字は?」
「内緒にしておきます。謎めいてる女の子は魅力的っていいますから」
「……この街は、謎めいてる女の子だらけだな」
どこか疲れたように呟く祐一。そういえば、あゆにも最初は名字を教えてもらえませんでした。この街には『名字を秘密にすることで、男の子のハートをげっちゅー☆』みたいな、おまじない本でもあるんでしょうか?
「わたしのことは、栞でいいですよ」
「わかった。俺のことも遠慮なく、お兄ちゃんって呼んでいいぞ」
「うん、そうするね。お兄ちゃん」
「……やっぱり、なかったことにしてくれ」
「……わ、わたしも言った瞬間、恥ずかしかったです」
一瞬立ち止まりますが、気を取り直して再び歩き始める二人。
「風邪の方はどうなんだ? ちゃんと薬飲んでるか」
「いっぱい飲んでます」
「ちゃんと医者の言うとおりにしてるか?」
「ふふ……あまりしてないです」
「ちゃんと言うこと聞けよ。でないと、いつまでも治らないぞ」
「そうですね。ちゃんと聞きます」
「ああ。そうすれば、すぐによくなるさ」
と言って、祐一は栞の頭をぽんぽんと軽く叩きました。
「あっ……祐一さん、本当にお兄ちゃんみたいです」
栞の声は小さすぎて、祐一には伝わりませんでした。
そのあと祐一に用事を問われて、「祐一さんに会いに来ました」と笑顔で答える栞。昨日会ったときはストレートに言えませんでしたが、今日は素直に口にできています。
ですが会いにきた理由を「面白い人ですから」と答えてしまうところには、まだ照れが感じられました。いや、でも、栞だったらこのくらいでいいくらいです。しかし、常に作画が良くて可愛いなあ栞。
「祐一さんは、雪好きですか?」
「冷たいから、嫌いだな」
「わたしは好きですよ。綺麗ですから」
栞はしゃがんで、積もった雪を手ですくって握ります。
「ねえ祐一さん。雪だるま作りませんか?」
「おまえ風邪引いてるんだろ。だいたい、この街に住んでるなら雪だるまなんて作り飽きてるんじゃないのか?」
「おっきなのは、わたし一人じゃ作れませんから」
「おっきなのって……どれくらいだ」
「全長10メートルくらいがいいです」
「作れるかっ!」
「そのくらい大きいのを作るのが夢だったんです。幼稚園のころの夢ですけど」
このときのセリフで、幼稚園の『ち』にアクセントがあるあたり「栞は北海道民じゃないんだなあ」とちょっとガッカリ。北海道では、幼稚園の『よ』にアクセントがきますから(どうしてもKanonと北海道を結び付けたいらしい)。
楽しげに雪をいじっていた栞でしたが、小さなくしゃみが漏れます。たしなめるように祐一が声をかけます。
「ほれみろ。今日はもう帰れ。元気になったら一緒に作ってやるから」
「本当ですか」
「……全長10メートルは保証しないけどな」
「わかりました、我慢します。それじゃまた、祐一さん」
「ああ、お大事に」
祐一は、遠ざかってゆく栞の背中を見守り続けました。栞は振り向かずに歩きつつも、祐一に向かって小さく手を振ります。
栞の居た場所には、小さな3つの雪玉だけが残されていました。
家への帰り道。ご機嫌でスキップしている真琴と出会いました。
どうやら風邪は治り、今はおつかいで豆腐を買いに行くところのようです。
「一人で買えるのか?」
祐一は元気な真琴を見たら、からかわずにはいられません。からかわれると面白いくらいに意地になるのが真琴です。
「子供じゃないから買える!」
「どう見たっても子供じゃないか」
「大人よぅ!」
きっぱりと主張する真琴。その態度を見ていた祐一に、ふとイタズラ心が湧きました。しっかしいくらなんでも湧きすぎです祐一。胸中に湧出量豊富なイタズラ温泉があるとでも言いたいところ。
「そうか。じゃ、ついでにエロ本も頼む」
財布から小銭を渡しつつ、とんでもないこと口走りました。
「エロ本……って、どんな本?」
なにも知らない無邪気な眼で質問する真琴。祐一の黒さが際立ちます。
「知らないのか。大人向きの本で、読むと興奮するんだ。わくわくするぞー」
「へぇー」
嘘は言ってませんが真実を誤魔化す祐一。
「本屋の店員に、エロ本下さいって言え。たくさんあったら、店員のおすすめでいいからな」
「うん! 真琴も読んでいいよね?」
「お前が大人だったらな」
「うん! 真琴、大人だよ」
真琴は鼻歌を歌いスキップしながら、商店街へと向かいます。その先に待つ悲劇も知らずに。
「……さて、帰るか」
騙すだけ騙しておきながら、あっさりイタズラの結果がどうでもよくなる祐一。とんでもない外道です。
自室のベッドで寝転がり、肉まん片手にマンガを読んでいる祐一。
「ゆーいちー!!」
そんなゆったりした時間を打ち破るようにドアが開き、真琴が怒鳴り込んできました。
「……ん?」
しかし祐一はわずかに振り向いただけで、ゆったりモードを崩そうとしません。大将の器です。
「真琴になんて本買わせる気だったの!」
「買えたか?」
「買えない! 買わない! 買えるか!」
「すごい三段活用だな」
顔を真っ赤にして地団駄を踏む真琴。それがやたらと可愛いです。ちゃんと振り向いて真っ直ぐ見てあげましょうよ祐一。
「ものすごい恥かいちゃったんだから! 店員の人に説明されちゃったのよ、女性が買える本じゃなかったもん!」
「お前が子供の証拠だ。大人の女性なら平気で買えるはずだぞ」
「嘘だッ!」
まあたしかに、女性週刊誌やレディースコミックなどにはかなりきわどい性的描写があったりするので、祐一の言うこともあながち嘘ではありません。でも普通それはエロ本といわないと思う。
さらに叫ぼうとした真琴ですが、
「――ん? なにそれ?」
祐一の手に握られている丸くて白い物を見つけ、一瞬で怒りを忘れました。
「わからないのか? 肉まんだよ」
「にくまん?」
「匂い、嗅いでみるか? ほら」
祐一が差し出したに肉まんに、顔を近づける真琴。肉まんの美味しそうな匂いに、真琴はたちまち眼を輝かせます。
「あぅー」
感嘆の声? みたいなものをもらしつつ、肉まんに噛りつこうとしますが、寸前で祐一はサッと手を引きます。
「匂いだけって、言っただろ」
どこまで意地が悪いのでしょうか、まったくこの男は。
「それ、秋子さんが作ってくれたの?」
「買って来たんだよ。自分で」
あゆもだいぶ物知らずな感じでしたが、真琴はそれを上回ります。一般家庭で肉まんを材料から作ったりは……いや、秋子さんならばあるいは……!
肉まんが貰えないとわかった真琴は、今度は祐一のかたわらに置かれている雑誌に目をとめます。
「それなに?」
「マンガだよ。見ればわかるだろ」
祐一はそう言って、マンガ雑誌を手渡します。今度は減るものじゃないので気前がいいです。
雑誌の真ん中あたりを開いて、真琴はぐるりと目を走らせます。ですがすぐに、吸い込まれるように読み始めました。
「なんだよ……。マンガ、初めて見たわけじゃないだろ?」
「これ借りていい?」
「好きにしろよ」
「肉まんって、どこで買えるの?」
「商店街だろ」
「買ってくる!」
そう叫んで真琴は部屋から飛び出します。
まるで初めて肉まんとマンガに接触したような振る舞いの真琴。それを祐一は、不思議そうな表情を浮かべて見送りました。
商店街を走るピンクの市電。
AIRに登場した驚異の飲食物『どろり濃厚ピーチ味』の車体広告で彩られた路面電車です。
北海道には、喉が焼け付くほどに甘ったるいチョコレートドリンクや、謎の甘くて黒い炭酸カフェイン飲料ガラナなどがありますので、あの南国の町ではいまいち不評だったどろり濃厚ジュースも受け入れられてるのかもしれません。
時間はゆっくりと流れて夕方。
「真琴ー、帰ってるかー」
祐一はそう声をかけて、真琴の部屋のドアを開けました。
「うっわ!」
開けるとそこはマンガだらけ。何十冊という本が床のあちこちに積まれています。
そんな本の塔の真ん中で、真琴は肉まんをくわえながら寝転がってマンガを読んでいました。
「これ……全部買ってきたのか?」
「うん」
マンガから目を逸らさずに答える真琴。たぶん祐一は、どっかのうぐぅみたく万引きでもしたんじゃないかと疑ったのでしょう。
「お前、こんな金持ってたっけ?」
「うん」
明らかに話を聞かずに相槌だけ打ってる真琴。祐一は呆れ顔で近づきます。
「こんなに食べたら、晩御飯食えなくなるだろ。俺が手伝ってやる」
「うん」
生返事を聞きつつ、真琴の横に置かれていた肉まんを取り上げます。
「貰っていいな?」『ハイ、ドウゾ』
腹話術の要領で真琴に返事をさせます。こんな悪質な譲渡契約みたことない。
だというのに真琴はまったくそれに気付かず、マンガを読みふけっていました。
「すごい集中力だな……」
祐一は半ば驚きつつ、半ば呆れた顔を浮かべました。
「ゆーいちー!!」
しばらくして、祐一の部屋にすごい勢いで真琴が怒鳴り込んできました。
「持ってったでしょ真琴の肉まん!」
倒置法を使って怒る真琴。さっきの妙な三段活用といい、国語が好きなのでしょうか?
「いや、その場でいただいた」
「え、いつのまに?」
「お前が本を読んでいる横で、食っていいかちゃんと聞いたぞ」
「真琴、なんて答えたの?」
「ハイ、ドウゾ。って」
「嘘だッ!」
またもや地団駄を踏む真琴。
ふと祐一は、真琴の頬に肉まんのかけらがついていることに気がつきました。それを指摘すると、真琴は手の甲で拭って舐め始めます。まるで猫が顔を洗っているかのようです。
「……お前なぁ、ちょっとだらけすぎだぞ。食って寝てゴロゴロして。それじゃ動物と同じじゃないか」
たしかにその行動パターンは猫っぽいです。本人も少しは自覚があるのか、「あぅー」と言い訳がましく唸ります。
そこに、秋子さんがやってきました。
「真琴、帰ってたの。お豆腐は?」
訊ねる秋子さんに、真琴は困ったような顔になって縮こまりました。
その態度と、さっきの大量のマンガ本から、祐一には思い当たることがあります。
「お前、ひょっとして豆腐のお金使い込んだんじゃないだろうな」
「違うもん!」
「なら、お金出してみろ」
問い詰められて、真琴は苦渋の表情を浮かべます。しっかし万引きといい使い込みといい、子供の教育に悪いアニメです。PTAから「子供に見せたくない番組」のランキングに入れられそうです(そんなわけない)。
しばらく黙っていた真琴ですが、祐一に睨まれると「本当は使っちゃった」と打ち明けました。
「こらぁ!」
怒鳴る祐一。他人からおつかいを頼まれたのに、そのお金を使い込むなど、笑って許せる話ではありません。
こっぴどく叱ってやらなくてはと身を乗り出した祐一を、秋子さんが制止しました。
「まあまあ祐一さん。あとはわたしに任せてくれませんか」
見ると、真琴は秋子さんにしがみついてすっかり怯えています。ですのでここは、家主であり一児の母でもある秋子さんに委ねることとしました。
しばらくして、秋子さんが真琴の部屋から出てきました。
「叱ってくれました?」
祐一が秋子さんに聞きます。ここは普段の菩薩のような笑顔を脱ぎ捨てて、般若のように怒ってもらいたいところです。場合によっては、特製ジャムを無理やり口に流し込むなどの体罰も与えてもらいたい! ……って、祐一は思ってます。たぶんきっと(心境の捏造)。
しかし秋子さんは微笑んで答えました。
「おこづかいは別に渡すからね、って言いました。そうすれば好きな物買えるでしょう?」
「…………それだけ?」
「ええ」
「そんなことじゃ懲りませよ。なんでそんなにあいつに甘いんですか」
笑って許せることじゃないのに、笑って許してしまう秋子さんに抗議します。
「だって、記憶をなくしているんですもの。いたわってあげないと」
不満げな祐一を、秋子さんはさらりと流しました。
「……記憶喪失、ねえ」
そもそもその前提を信用していない祐一は、顔をしかめたままでした。
時間は過ぎて、夜。
「ただいま」
「いってきまーす」
部活から帰ってきた名雪と入れ替わるようにして、祐一は出かけようとします。
「どこいくの?」
名雪の問いかけに、祐一はにやりと笑って答えました。
「魔物退治だ」
人の気配がしない夜の校舎。
「雰囲気満点だよな」
祐一はコンビニ袋片手に廊下を歩いていました。
夜の校舎といえば舞、今夜は手土産付きです。しかし朝昼夕とさんざん女の子と会っておきながら、夜にも勤しむ。この男のバイタリティはとうてい真似できそうにありません。
と、さほど探しまわる必要もなく、あっさり舞を見つけました。昨日のように、窓際の廊下で剣を手にして直立し、じっと外を見つめています。
「よっ。今夜もいたな」
「…………」
「昼の様子じゃ、佐祐理さんはこのことを知らないみたいだな」
「…………」
舞は答えるどころか、祐一の方を向こうともしません。
しかしこれくらいでめげることがないからこそ相沢祐一です。それに今夜は秘密兵器がありました。
「腹、空いてないか」
「…………少し」
ようやく舞から反応を引き出しました。昼間の様子から、食べ物を使えば口を開かせることができると予測していたのです。情報の収集と分析こそが、実戦での勝利につながります。
祐一はコンビニ袋から、パックのおにぎりを取り出しました。
ですが舞は動こうとしません。
「どうした?」
「剥いて」
「食うときくらい離せ、その剣」
言いつつもパックからおにぎりを取り出し、舞に手渡します。
彼女はおにぎりを無言でむしゃむしゃと食べ始めました。
「その剣、どこから持ってきたんだ? それ、まさか本物じゃないだろ。演劇部の小道具かなにかか?」
舞の剣はなぜ西洋剣なのか、私も原作ゲームをプレイしたときからずっと気になってました。日本刀の方がそれっぽい雰囲気がするのに。あえて、ファンタジー感を出すためでしょうか?
「ん?」
なにか背後に気配を感じて、祐一は振り返ります。
するとそこには、のっぺりとした怪しげな影が忍び寄ってました。
「うぇぇぇ!」
驚き飛びのいたところで、舞の剣が怪しい影に向かって一閃します。
「あうぅぅぅぅぅぅー!」
「……真琴」
それは、頭からカーテンをかぶった真琴でした。
「こ、殺されるかと思ったぁ」
あと一歩、舞が踏み出していれば、真琴の首と胴は泣き別れでした。
「お前、何しにきたんだよ」
「祐一をおどかそう思ってついてきたのにぃ。なによ、この女は!」
そう言って舞を指差します。ここだけ聞いてると、なんか痴話喧嘩みたいです。
「自業自得だろ!」
真琴にゲンコツを落とす祐一。もうかなり真琴を子ども扱いにしています祐一。
と、おにぎりを飲み込んだ舞が、真琴に手を差し伸べました。
「……おいで」
そして、そのまま頭を撫でます。
きょとんとして撫でられていた真琴ですが、すぐに我に返って飛び退きました。先ほどバッサリやられかけた相手ですので、気を許せません。
「なによ! バカにしてんの!?」
「ただ、そうして欲しいかなと……」
「思わないー!」
真琴はさらに退いて、さっきまで標的だったはずの祐一にすがりつきます。
「祐一。こいつ、危ないわ」
「お前が言うな、お前が」
と、祐一は真琴がかぶっていたカーテンを突き出します。
「ほら、どこのカーテンだか知らないけど、戻して来い」
「めんどい」
「自分で散らかしたんだから、自分で片付ける」
「あぅー」
カーテンを持って、面倒くさげに今来た道を戻りはじめた真琴ですが、数歩進んだところでその足が止まりました。
「どうした。早く行って来い」
「……怖いから、ついて来て欲しいんだけど」
さっきまでの強気さとは、うってかわってしおらしい態度です。
祐一は深々とため息をついたあと、
「ってなわけだから、帰るな。俺」
と舞に挨拶をして背を向けました。
「……祐一」
立ち去ろうとしていたところに、舞から声をかけられます。
「ん?」
「あの子に優しくしてあげて」
「……え?」
祐一は思わずいぶかしげな表情を浮かべてしまいます。
さっき真琴と会ったばかりの舞が、なぜそんなことを言うのか。
「ねぇ早く来てよぅ。祐一ってばぁ!」
背後から、真琴のせかす声がかけられました。
第5話 終
……………………くたー。
いや、今回は濃密な話でした。5人のヒロインがすべて登場。重要そうなシーンも目白押しです。
この視聴記も、テキスト量で30KBを超えてしまいました。第1話のときの2倍です。短くしたかったんですが、重要セリフが多い上に、省略しにくいシーンばかりだったので。あぅー(見すぎて口癖がうつった)。
Kanonも第5話となり、ヒートアップしてきたというところでしょうか? するとこれからますます、省略できないシーンだらけになったりすると……視聴する分にはいいのですが、書くこと考えると泣きそうです。
今回、サブタイトルが「魔物たちの小夜曲」というわりには、舞の出番が多くなかったように感じます。ヒロイン総登場の回でしたし。
……そういえば「女は魔物」って言葉がありましたね。それか。
しかし祐一の多方面外交には腹の立つ限りです。なんてタラシだ! やはり祐一は許せんとわかった。
次回「第6話 謎だらけの嬉遊曲(ディヴェルティメント)」
タイトルの字面だけ見てると、楽しげなコメディみたいですが、どうも真琴メインのストーリーがシリアスにどんどん進んでいくようです。
しかし真琴……真琴……。このハイクオリティで真琴シナリオって、考えるだに身構えてしまうのですが。
視聴記書けるかなあ……次回。
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