――夢
夢には終わりがある
どんなに楽しい夢も
どんなに怖い夢も
暖かい布団の中でお母さんに揺り起こされて、夢は途切れる
ずっとずっと変わらない朝の風景
だけど今は……
夢に終わりがなくなったのは、いつからだったろう



「いいかげんに泣きやめって」
 夕暮れに染まる雪の街。幼い少年は、同い年くらいの少女にそう言った。
 白いリボンをつけた少女はずっと泣き続けている。
「いったい何があったんだよ? なにか言ってくれよ、あゆあゆ」
「……うぐぅ。あゆあゆじゃないもん」
「なんだ、ちゃんと喋れるじゃないか」
 泣き声がわずかにトーンを落とす。少女は物悲しげな瞳で少年の顔を見つめた。
「じっと見られても困るんだけどな。……もしかして、生き別れの兄にそっくりだとか?」
「…………」
「じゃ、俺そろそろ帰るから」
 冗談も功を奏さず、気まずくなった少年は話を終わらせようとした。
 と、腹の虫の鳴く音が響いた。
 それを鳴らした張本人の少女は、羞恥で顔を赤くする。
「腹、減ってるのか?」
 返事の代わりにもう一つお腹の音。
「やっぱり腹減ってんだろ?」
「……うん」
 少女は恥ずかしげに、首をわずかに縦に振る。
「よし、なにか買ってきてやるよ。食いたい物あるか?」
「…………」
「なにかないのか? 好きな食べ物」
「……タイヤキ」
「タイヤキだな。よし、ここで待ってろ!」
「……待ってる」
 少年はお店を探して元気よく駆け出し、少女はその場で静かに待っていた。



第4話 休日の奇想曲(カプリース)



 そんなわけでKanon第4話、いきなり過去シーンから始まりました。幼い日の祐一とあゆです。
 街を覆う白い雪が、夕焼けの赤い色に照らされている風景がやたら綺麗です。ああもう、今年は帰省することにした! 札幌に!(私事)
 小ネタですが、最初に風景として出てきた路面電車(バスじゃないです市電です)の車体広告に「長森牛乳」とあったのにはびっくり。
 いや、カラーデザインからして森永牛乳のもじりなのでしょうが、ONEというゲームに長森瑞佳という牛乳大好きヒロインがいたような……。
 もしや、これは京アニが次にONEのアニメ化をするという予告!? TVアニメAIRのときも、Kanonのヒロインを脇役で出すという予告をしましたし。
 ……まあ、そんな淡い期待はさておいて。



 祐一がタイヤキを買って戻ってきます。タイヤキ屋のオヤジから追いかけられたりはしてないようなので一安心。
 無表情で突っ立って待ってるあゆ。「ちゃんと待ってたんだな」という祐一のセリフに「待ってろって言われたから」と無表情で返すあゆ。冗談半分に祐一が頭をなでると、途端に赤面して一歩飛び退くあゆ。
 ああ……本編のあゆとは全然違う萌えキャラ属性を保有しています。素敵です。
 本編のあゆが萌えキャラでないと言う気は全然ありませんが、ええ。でも食い逃げはどうかと思(以下略)。
「タイヤキは焼きたてが一番だからな」
 祐一がそう言って、あゆにタイヤキを薦めます。現在のあゆの口癖が、このときの祐一の言葉をなぞっているのだと思うと、なにやら感慨深いものがあります。
 あゆもタイヤキを口に運び、悲しげだった表情が徐々にやわらいでいきました。



「俺、そろそろ帰るから。じゃあな、あゆあゆ」
 すっかりタイヤキを食べ終わった後、祐一はそう言って立ち去ろうとします。
 ですがコートの裾を、うつむいたあゆに掴まれてしまい立ち往生。
「どうした?」
「ボク、あゆあゆじゃないもん」
「そう、だったな。……じゃあ行くから」
「うん」
 それでもあゆはうつむいたまま、手を離そうとしません。
「歩けないんだけど?」
「タイヤキ」
「……ん?」
「また、タイヤキ食べたい」
「そんなに気に入ったのか?」
「……うん」
「また、一緒に食べるか?」
「うん!」
 途端に手を離し、顔を上げるあゆ。
 一歩間違えればたんにタイヤキのためだけに祐一を捕まえていた食欲うぐぅですが、あゆは「一緒に」の部分に惹かれたのでしょう。
 まあこの年齢ですとそんな微細な感情に気付かず、さっき過ごした時間の楽しさが二人でいたせいかタイヤキを食べていたせいかもわからず、たんにタイヤキを食べたいと思っただけなのかもしれません。……あれ、最初の食欲うぐぅに話が戻った?
 明日、再び会うことを約束して、二人はゆびきりをします。
 あゆが最初に左手を出そうとして、手を伸ばした瞬間に間違いに気付き、恥ずかしげに右手に替えます。この演出が素敵です。あゆが左利きかどうか怪しいなんて言った奴は誰ですか。私ですが。
「じゃあ、明日な」
「うん。……バイバイ」
 街角を曲がってその後姿が消えるまで、祐一はあゆを見つめていました。
 ふと目に入る時計、リンゴンと鳴り響く鐘の音。このときようやく、名雪を待たせていたことを思い出しました。
 慌てて駆け戻る祐一。息を切らせてスーパーの前に辿り着くと、一人淋しく立ち尽くす名雪の姿がありました。彼女は祐一に気付くと、恨めしそうな眼で一言。
「うそつき」



 そこで祐一は目を覚ましました。せっかくのいい夢だったのに、最後に名雪が登場したせいで寝覚めは最悪です。
 と、どこからか物音。祐一は体を動かさずに、目だけでドアを確認します。
 ノブが静かに動き、ドアが開きました。
「にひひひひひ」
 忍び入ってきたのは真琴です。残念ながら夜這いをしにきた雰囲気ではありません。
 なにをする気やらと、祐一は寝たふりをしながら様子を見ることにしました。
「あはは……」
 含み笑いをしつつ、祐一の枕元に立ちます。こんにゃくを取り出して、祐一の顔の上で構えました。そして、ひそひそ声でカウントダウン。
「3……2……1…」
「ゼロー!」
 叫んで跳ね起きる祐一。寝込みを襲ったつもりで逆に不意を突かれた真琴は、驚いてしりもちをついてしまいました。
 奇襲をかけようとしている敵には、奇襲をするのが最も有効である。たしか孔明だか誰かがそんなことを言ってた気がしますが、祐一はそういう兵法も習得しているようです。さすが。
「俺に仕返ししに来て、また失敗したってところか」
 ベッドの上でかっこいいポーズをとりながら真琴を見下す祐一。
「そ、そんなことないわよぅ!」
「じゃあなにか? そのこんにゃくは夜食か?」
「こ、これ? そ、そう」
「じゃあ、食べろ」
「え? い、いま?」
「食べようと思ってたんだろ?」
「……あぅー」
 祐一の眼がサディスティックに輝きます。素手でベタベタ触ったこんにゃくを(しかも一度床に落ちてるっぽい)、調味料も無しに食えというのは立派な拷問です。
 しかたがなくこんにゃくを一口かじる真琴。祐一が意地悪げに訊ねます。
「うまいか?」
「……味が無い」
「どうした。ペロっといけよ?」
 執拗にせかす祐一。このときの声が実に楽しそうで、見てているこっちまで真琴をいじめたくなってきます。なんだこの感想。
「どうしたの?」
 そのとき、秋子さんが現れました。まあ、あれだけドタバタして起きないのは名雪だけです。
 途端に祐一の顔に浮かぶ「ヤバイ」という表情。どうやら自分でも、どちらかといえば善良ではない行為を楽しんでいたとは思っていたようです。慌てて言い訳をします。
「ま、真琴が、こんにゃくを食べているんです。夜食にって」
「こんにゃく? ……そんなに、お腹空いてたの?」
 言外に「味の無いこんにゃくを食べるなんて……わたしの作った料理では足りないという当て付け?」みたいな迫力がこもっている気がします。恐ろしいぜ秋子さん。真琴もなんだか脅え顔。
「ほら、いらっしゃい。なにか作ってあげるから」
「お腹は、もう空いてないんだけど……」
 真琴がそう言ってるのに、秋子さんは夜食会場へと連行していきます。秋子裁判では真琴に有罪判決が下されたようです。
「よかったな、真琴」
 祐一は自分に罰がないので安心し、余裕の表情で真琴を見送りました。
 今夜の戦いは祐一の完全勝利です。



 次の日の朝。
「今日こそこいつを片付けないとな」
 祐一は玄関に山と積まれた引越し荷物を眺めてそう呟きました。届いてから3日も経ちますが、いまだにそのままなのでした。
「うぅ……」
 そこに真琴が現れました。なにやらだるそうに胸をさすっています。しっかし、平たい胸だ。
「おはよう、真琴」
 昨日の晩の勝者である祐一は、爽やかな顔で挨拶をしました。
「あぅー」
「お前の朝の挨拶は、あぅーなのか」
「胸焼けがずっと収まんないのぉ」
「夜中に食い物ねだったりするからだ」
「ねだってなんかないわよぅ! あれは祐一の顔に……!」
「俺の顔が、なんだって?」
「あぅー」
 勝者の余裕で迫る祐一、激しい追撃に真琴劣勢です。
「今に見てなさいよ!」
 そう捨て台詞を残して、走り去る真琴。可愛さたっぷりです。いじめたくなるKanonヒロインNo.1と言えましょう(2番目はたぶんあゆ)。

 ちょうど入れ替わるようにして秋子さんが現れました。どうやら部活で出かけた名雪が、お昼の弁当を忘れてしまったので、届けにいくみたいです。
「それなら俺、行きますよ」
 祐一は笑顔でおつかいを引き受けました。



 快晴の空の下、コートを着た祐一が雪道を歩きます。途中で、着物姿の女性と何度もすれ違います。
 なんか学校がないと思ったら、今日は成人の日で祝日のようです。ちなみにKanonの舞台は西暦1999年の日本。祝日法改正前ということで、成人の日は1月15日固定です。
 ……あれ、まてよ?
 この日は祐一が来てから4日目です。原作ゲームでは祐一は1月7日に来るのですが、アニメ版では1月12日になってるのでしょうか?
 まあ、このへんは後々に別途考察していくことにして、本編を進めます。
「陸上部の部長か……どんな顔してやってるんだろうなあ」
 そう考えながら歩いているうちに学校に到着。体育館へと向かいます。
 体育館の中に入ると、いきなり目の前を走って横切るブルマーの体操着の女子。懐かしき二十世紀を感じさせます。
 元は女性解放運動のために考案されたというのに、昨今の日本では逆に女性からの抗議のため廃れつつあるブルマー。どこか淋しいものがありますが、私はブルマー派ではないので比較的どうでもいいです。スパッツの方が可愛いよ!
(どうでもいい)
 それはともかく。
「名雪ー」
 祐一は名雪を呼び、お弁当を渡しました。
「わぁ、届けてくれたんだ」
 祐一がわざわざ届けに来てくれたことに、名雪も嬉しそうな笑顔を浮かべます。お昼の弁当を忘れるなんて、部活中も気になってしょうがなかったでしょう。
 そのとき、ホイッスルが響きます。
「わたし、行かなきゃ」
「俺、少し見てっていいかな?」
「うん。隅っこの方ならオッケーだよ」
 部活に戻る名雪。祐一は壁際に寄り、その様子を眺めることにしました。
 体育館を周回して走る名雪。走り終わったあと後輩と笑いあう名雪。教師からフォームの指導を受ける名雪。
 ところでこの体育館、女子陸上部の貸切状態となっているのか、走っている体操着姿の女子しかいません。それをじっくり見ている祐一はなんて怪しい奴でしょうか。
 女子達のブルマー姿を堪能した祐一は……じゃなくて、ふだんはおっとりした名雪がきちんと部活動に勤しんでいるところを見て納得した祐一は、体育館から去りました。



「ん? 香里」
「相沢くん」
 正門のところで、美坂香里とばったり会いました。彼女も部活に来たようです。
「名雪もお前も、休みなのに真面目だな」
「名雪はね」
 そして香里はわずかに表情を沈め、
「……私はちょっと、家に居たくないだけ」
 と、付け足します。
「親とケンカでもしてるのか?」
「そんなとこ」
 わずかに、気まずい雰囲気が漂います。
「相沢君、もう学校には慣れた?」
 そんな空気を吹き飛ばすように、香里が話題を無理やり変えます。
「まだ少ししか通ってないわりに、まあまあだな」
「よかったわよね。同じ教室に、知ってる人がいて」
「名雪のことか?」
「あんまり名雪を困らせたりしたらだめよ。あの子のおかげでクラスに馴染んでるんだから、感謝しないと」
「たしかに……」
「名雪って、のほほんとしているようで、けっこう無理するところがあるから、気をつけてあげてね。部活も、毎日くたくたになるまでやってるし」
「むぅ、あいつがよく寝るのには、そういう理由があったのか」
「……あれは、生まれつきだと思う」
「だよな」



 ここでAパート終了、CMに入ります。
 祐一と香里との会話。地味なシーンではありますが、セリフのセンスや細かな仕草、声の演技などがとてもよかったです。京アニはこういうところもきちんとしてくれるのが嬉しい。
 しかしCMを見るたびに思うのですが、DVD第一巻発売が1月1日って……むぅ。



 CM終わってBパート開始。
 学校から出た祐一は、商店街を歩いていました。
 しかし祐一は朝の登校時は住宅地しか通らないというのに、帰りは必ず商店街を通過します。寄り道好きなんでしょうか?
「あら、祐一さん」
「あ、秋子さん」
 そこで、買い物に出ていた秋子さんと出会いました。白いコートがよく似合ってます。
 秋子さんがお米を買うということを知り、祐一は運ぶのを手伝います。新沼米酒店で買った米袋を肩に担ぎました。
 ちなみに、TVアニメ版AIRにも新沼米酒店が出てきました。全国チェーン?
 秋子さんの荷物運びをしながら商店街を歩いていると、
「祐一くーん!」
 背後から迫る影。商店街において高速で突撃をかけてくる存在といったら、あゆしかいません
「やっぱり祐一くんだ。また会えた……うわぁ!」
 すごい勢いで転ぶあゆ。今回は突撃してこないようです。それとも隣に秋子さんがいるので、遠慮したのでしょうか?(なにをだ)
 転倒しているあゆに、秋子さんが手を差し伸べて助けます。
「祐一さんのお友達ですか?」
「ぜんぜん知らない女の子です」
 祐一の女の子いじめは、秋子さんが隣にいるにもかかわらず絶好調です。うらやましい。
「うぐぅ、ひどいよ」
 抗議するあゆ。その手に、また例の紙袋が握られています。
「お? 今日も食い逃げしてきたのか?」
「違うよ。これはさっき、タイヤキ屋のおじさんがくれたの!」
「あんなに迷惑かけてるのに、なんて人のいいオヤジだ……」
 食い逃げこそしなかったものの、やっぱりお金も払ってないあゆ。こやつは現金を持ってないのではないでしょうか。
 考えてみれば秋子さんとあゆは初対面。そこで祐一が間に入って、それぞれを紹介しました。
「水瀬秋子さん。俺が居候させてもらってる家主さんだ」
「ヤヌシって、なに?」
「家の中で、一番偉い人のことだ」
「そうなんだ。一つ、勉強になったよ」
 そう言って笑顔を浮かべるあゆ。それがなんかやたらと可愛くて、私はテレビ画面みながら机をバンバン叩いたりしてました。いや、意味なんてないですが。
「祐一さん。わたしにも紹介してくださいます?」
「ああ。月宮あゆ、俺の知り合いです」
 ぺこりと頭を下げて「よろしくおねがいします」と挨拶をするあゆに対し、
「え……月宮あゆちゃん?」
 秋子さんは、なにか信じられないものでも聞いたというように動きが凍ります。そのしぐさを不思議そうにみつめる祐一とあゆ。
「あ、いえ。わたしの気のせいですね」
 と、秋子さんは微笑んで話を終わらせました。



「祐一くん。これからどうするの?」
「もう帰るとこだ。今日は引越しの荷物を片付けなきゃならないしなあ」
「だったら、ボクが手伝ってあげるよ!」
「お前、時間あるのか?」
「うん! 昨日探し物を手伝ってくれたし、そのお礼」

――というわけで、水瀬家までついてきたあゆ。秋子さんの後に続いて、水瀬家の玄関をくぐります。
「おじゃまします」
 初めて入る他人の家ということで、借りてきた猫のようにおとなしいあゆ。商店街のときとは別人のようです。祐一がそれをからかいます。
「やけにしおらしいな。いつもみたいに顔面から突っ込んで行くのかと思った」
「そんなことめったにしな……わぁ!」
 抗議しようとしたとたん、後ろ向きに転ぶあゆ。今回は背中から突っ込むようです。それにしてもよく転倒する娘だこと。
 と、階段の上の方から、こちらをちらちらとうかがっている人影に気付きました。真琴です。柱に身を隠したりして、あゆ以上に借りてきた猫。
「真琴? でてこいよー。紹介してやるから」
 本当に猫を呼ぶように真琴を呼ぶ祐一。
 体中から警戒感を漂わせつつも、真琴はゆっくりと近づいてきました。
「ボク、月宮あゆです。よろしくね」
 背筋を伸ばし、意外に礼儀正しい自己紹介をするあゆ。
「さ、沢渡真琴。よろしく……」
 初対面の人に弱いのか、やたらとぎこちない真琴。
「ついでだから、俺の荷物片付けるの、お前も手伝ってくれないか」
「えぇー、真琴もー?」
 祐一の提案に、不満そうな声をあげる真琴。祐一はたった一言で、真琴の態度を平常に戻しています。さすが。
「居候なんだから、それくらいしてもいいだろ?」
「あぅー」
 そんなわけで真琴もあゆと一緒に、片付けを手伝うことになりました。



 ですが、ダンボール箱1個を運んだだけで、真琴はあっさりへたりこんでしまいました。
「お前、本当に力ないな」
「ほっといてよぅ」
 仕方がなく真琴とあゆにはダンボール箱の開梱を頼み、祐一は他の荷物を取りに行きます。
 祐一の部屋に、真琴とあゆが二人きりで残されました。どことなくまだ緊張している真琴。
「そうだ!」
 あゆはなにか思いついたように叫び、コートのポケットから紙袋を取り出しました。中には当然タイヤキが入っています。
「食べる? タイヤキ」
「いいの?」
「ちょっと冷えちゃったけど、よかったら」
 あゆはタイヤキを手渡します。真琴はそれを受け取り、しげしげと眺めたあと、口に運びました。
「甘い……」
「甘いのは嫌いだった?」
「でも、おいしい」
 そう言って、真琴は微笑みます。あゆもつられて微笑み、少女たちは向かい合って笑顔を浮かべました。
「……やれやれ、太るぞ」
 荷物を運んできた祐一が、そんな彼女たちをからかうように声をかけました。



 その後、あゆと真琴は意外な健闘をみせ、昼下がりには片付けは見事に完了しました。
 お疲れ様ということで、三時のおやつとなります。秋子さんが紅茶とカステラを用意してくれました。
「真琴は?」
「疲れたから、あとで食べるそうです」
 祐一とあゆと秋子さんの三人で、ダイニングテーブルを囲みます。
「やっぱり、三人で力をあわせるとすぐだったね!」
「お前も真琴も、荷物をひっくり返してばっかだったけどな」
「うぐぅ……」
 せっかくのあゆが頑張ったというのに、つれない言葉を返す祐一。
「でも、少しは役に立ったでしょう?」
「はは……。ああ、おかげで助かった」
 一転して、笑顔を向ける祐一。
 最初はすげない態度を見せておいて、相手がへこんだあたりで手の平を返したように優しい言葉をかけてやる。祐一の見事なまでの人心掌握テクニックです。
 しかしあゆも一筋縄ではいきません。
「よかったぁ。手伝うって言ったのに役に立たなかったら、ボク嘘つきになっちゃうもんね」
 そのセリフは、昨日探し物の手伝いをしながら結局見つけられなかった祐一の心に、チクリと刺さったに違いありません。
 そんな裏の心理戦を繰り広げながら、表では笑顔でカステラを食べる三人(考えすぎです)。
 その楽しげな団欒を、二階から真琴が一人で見つめていました。



 楽しいティータイムも終わって夕方となり、あゆは帰ることになりました。
「それじゃ、これで帰るね」
「一人で帰れるか?」
「ボク、そんな子供じゃないもん!」
 玄関まで、祐一と秋子さんが見送ってくれます。しかし、真琴は降りてくる様子がありません。
「真琴さんにも挨拶したかったんだけど」
「きっと昼寝でもしてるんだろ」
 若干気にかけつつも、あゆは祐一と秋子さんの笑顔に見送られて、玄関から出ました。
 玄関から出てすぐに、あゆは家の方へ振り返ります。
 二階の窓から真琴がじっと見ていました。あゆに見つめ返されているのに気付くと、怯えるようにわずかに身を引きます。
 そんな真琴に向かって、あゆは微笑んで小さくバイバイと手を振ります。真琴もおずおずと、わずかに手を振りました。
 するとあゆは満面に笑顔を浮かべ、大きく手を振ってきます。真琴も微笑み返し、手を振りました。
 あゆは笑顔のまま、夕焼けの街へと駆けて行きました。



 すっかり日も沈んで夜。祐一の部屋にノックの音が響きました。
「ああ、帰ってたのか」
「ただいま」
 ドアを開けると、そこには名雪がいました。
「ね、祐一」
「マッサージでもしてくれるのか。悪いな」
「違うよー」
「じゃ、風呂上りに頼む」
 そう言ってドアを閉めようとしますが、名雪が止めます。
「マッサージの話じゃないよ。貸してあげたノート、返してもらいにきたの」
「お前の……ノート?」
「貸してあげたでしょ。前の学校より授業が進んでいるからって」
「うーん……………………あ」
「思い出した?」
「学校に置きっぱなしだ」
 祐一の言葉に、名雪は泣きそうな顔になります。
「えぇー、困るよ。宿題しなきゃならないのに」
「悪い悪い、明日学校で返すから。じゃ」
 やたら爽やかな笑顔でドアを閉めようとする祐一。ひどい男です。当然名雪が止めます。
「じゃ、じゃないよー」
「じょっ!」
「じょ、でもないってば」



 真面目な名雪さんには、宿題のことを忘れて寝るという選択肢はなく、祐一が学校までノートを取りに行くこととなりました。
「学校、開いてないよ。たぶん」
「どっか窓くらいは開いてるだろ。開いてなかったら、窓を割ってでも入ってやる」
「そんなのダメ」
 コートを着込んででかける祐一。そういえば水瀬家の玄関には、ちゃんと玄関フードがついています。こういう北国描写を見るとなんか嬉しくなってくる北国生まれの私。
 満天の星空の下、冬の天の川さえくっきり見える夜空に感嘆しつつ、祐一は学校へと向かいました。


※玄関フード
 玄関のすぐ外にでっぱった、ガラス張りの引き戸のついた小部屋のこと。サンルームとも。
 防寒の効果と、豪雪時にドアが開かなくなることを防ぐ役目がある。北国の一戸建ての定番。80〜90年代の新築一戸建てにはほぼ必ずついていた。
 しかしここ最近の住宅は、断熱ドアやロードヒーティング・半地下の上の玄関設置などのため、フードがない場合も多い。



 誰もいない夜の学校。施錠されていない窓から土足のままで進入します。警報もなく、宿直の人もほとんど見回りに来ないようです。無用心だなあとも思いますが、二十世紀の学校はこんなものだったかもしれません。
 祐一は首尾よくノートを回収して、廊下を歩いていました。
 窓際の廊下に差し掛かったとき、
「ん?」
 制服を着た一人の少女が、隙のない姿勢で窓の外を見てました。その手には抜き身の片手剣が握られています。
 雲が切れて、月が出ました。窓からの月明かりに照らしだされる少女。
 それは、川澄舞でした。
 どこか非現実的な風景に、声もなく立ち尽くす祐一。
 舞は彼の存在に気付くと、半身に構え、柄に手をかけたまま見つめ返します。
 青白い光の中で、二人は静かに向かい合っていました。

第4話 終



 と、以上が第4話でした。
 舞の話が始まるかと思ったら、ほとんどあゆと真琴の話でした。とくに序盤の回想シーンが思った以上に長かった。
 今回は展開が地味なので、最初に見終わったあとは「あれ、こんなもの?」などと拍子抜けしてしまいましたが、後でじっくり見直すととても良いシーンが多いです。
 例のAパート最後の香里との会話の他に、真琴とあゆのシーンも心に来るものがあります。別れのときに、夕焼けの中で窓ごしに手を振り合うシーンがすごく綺麗。
 あゆと真琴の二人は、今回作画も素敵です。この視聴記を書くために、何十回とビデオを一時停止しているのですが、その瞬間に真琴やあゆの笑顔が固定されるたびに「まずい! 可愛すぎる!」などと叫んで床を転がりまわってました。こんな姿、両親には見せられません。
 あと、本当に最後の登場になりましたが、舞。
 光線の演出、BGMのタイミングなどが大変良く出来ており、何度見てもため息が出てしまいます。あと、スタイルもすげえいいよ舞。素晴らしい。

 次回「第5話 魔物たちの小夜曲(セレナーデ)」
 今度こそ舞メインの話になるようです。






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